こんにちは OYUKIHANです。
今回は久しぶりの体験記になります。ただ業界内では結構いろんなところへお邪魔してお世話になった作家さんの多さではそこらの奴には負けないぜ!って僕なのですが、さすがにそろそろネタも尽きて来て(笑)。
いや、あるにはあるんですがわざわざブログに書くほどのネタではなく(笑)。通常はただひたすら指示された仕事を淡々とこなすだけなのでね。
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その中でもやはり特殊な業界、というか「人」が特殊な場合が多くいろんなエピソードを書いてきたわけですが、実は正直、これはあまり書かない方がいいかな‥と思った話があったのです。
でもネタも尽きてきたし、マンガ業界の真の部分までしっかりお伝えするために、あえて書くことにしました。
あまり景気のいい話ではありませんが興味ある方は読んでください。今回はおまけとして、アシ体験記ではなく、打ち合わせ体験記として、別のエピソードも加えて2本立てでお送りします(笑)。
正直、こういう人には会いたくなかった・・悪い人じゃないかもしれないが・・
ある時、知り合いの作家Nさんのところで仕事をしていた時に別の仕事場へのヘルプアシスタントを頼まれた僕。
以前入っていたアシスタントが一人辞めたため、新しい人が入るまでの一週間だけ入ってほしいという依頼。しかしデジタル作業ということで、まだそこまでデジタルへの自信が無かった僕は一瞬躊躇しましたが、ご本人と連絡とった時に僕の技能的なこともNさんから聞いて理解してるようで
「それでもいいので来てほしいです。あとはこちらで教えるから」と平身低頭。
そこまで言われるとNさんとの付き合いもあるし、無下に断るわけにもいきません。
その時住んでいた自宅からも近いこともあって「じゃあ一週間だけ」の約束で、空いていた日にヘルプに入ることになりました。
作家さんの名前はFさん。僕より少し年上の方でしたが、初対面の印象は割と腰の低い、優しそうな人という感じでした。
わざわざご本人が最寄り駅まで迎えに来てくれて、仕事場へ向かう途中も共通の知り合いであるNさんの話題で盛り上がる等、その時は仕事にも何の心配もしてませんでした。
その日の仕事場は、Fさんと二人きり。なれないデジタル作業ではありましたが、一つ一つ教えてもらって手順をメモし、なんとかかんとかこなすことができました。
「これなら一週間、楽しく仕事できそうだな‥」そう思ってもいました。
ところが次の仕事日・・・隠されていた Fさんの『真の姿』を知ることになるのでした…。
その三日後、再びFさんの所へヘルプに行くと、そこにはすでにアシスタントさんが一人。学校出たばかりというかなり若い男性。軽く挨拶し、パソコンを立ち上げて作業開始。Fさんがそのアシスタントさんに、「これをコピーして○○さん(僕)に渡してあげて。」と指示。
そのアシさんがコピー中、何かわからないことができたのでしょう。
「F先生、これは、こうこうこうなのでしょうか。」と質問。すると・・・
Fさん「ああ? んなの前に説明しただろ。自分で考えろよ。俺にいちいち説明さすな」
僕「!?・・・」
途端にピりつく現場。なんとなく不穏な空気を感じながらもとりあえず席につく僕。言われた作業をとりあえずこなしていきましたが、以前の和気あいあいとした雰囲気からは明らかに違う、やたら緊張感のある現場に変わっていました。
ちなみに仕事場はおそらくは8畳ほど、部屋数は他にも2,3あるようでしたが、仕事をする部屋はその8畳の部屋だけ。
そこにいちばん多い時でFさん入れて5人で仕事をするという話なので結構手ぜまな感じのする部屋でした。
・・・その後、表面上はニコニコと僕と世間話をしていたFさんが、さっきのアシさんに作業の確認を頼まれて彼の机の方に行った時のことです。
「何やってんだお前!全然できてねえじゃねえかよ!」と、今までの楽しげな会話とはうって変わってFさんの怒鳴り声が部屋中に響き渡ります。
「何度言えばわかんだよてめーは!バカなのか?しかもおっせーし。昨日からここやってんだろ。いい加減にしろよてめえ!」
「てめえのせいでどれだけ遅れてると思ってんだよ!グズ!頭ついてんのか?こんな簡単なこともできねーようじゃ終わってんなお前!」
・・いやもう、何もそこまで言わなくてもというくらいの「叱責」の連続。そして、
「こんな変なやり方誰が教えたんだよ!もっかいどうやってやったかやってみろよ!」と、今までの作業のやり方を確認するようでした。
そしてその彼がFさんの前で作業手順をやってみせた時、
「何やってんだてめえ!ちげえだろ!ふざけんなよてめえ!」とまた更に声を荒げて怒鳴ったかと思うと、
「バシッ!」
と、部屋中に響き渡る音。Fさんがそのアシスタントさんの頭をはたく音でした。
僕は背中を向けていたので直接は見てはいませんが、明らかに手が出てただろうという音に、少なからず僕も動揺を隠しきれませんでした。
いやもちろん、仕事ですから、作家さんの望む作業ができなければ叱られるのは仕方ありません。ただその、言い方ってものもあるし、何より「手を出す」ってのは、僕もいろんなところへお邪魔しましたが初めての経験で・・。自分の作業さえままならないほど、現場の雰囲気は凍り付いたものになっていました。
はたくといっても、おそらくは頭を平手で軽くたたく程度なのでFさん的にはさほど大したことではないだろうという認識だったのかもしれません。しかしいくら仕事とはいえ、叱るだけならともかくその勢いで手を出してしまうってのは、どう考えてもいいことだとは思いません。
その後もFさん、そのアシさんを何かにつけて叱りつけていました。その彼もあまり気が強い方ではなく、割と線の細いちょっと弱々しそうな人。響き渡るFさんのダメ出しに「スイマセン、スイマセン」と言うしかなく、その声もとても小さく半分涙声にも聞こえました。
それに対して僕はどうすることもできず、正直本当に「嫌な時間」を過ごすことになったのです。
実はFさん、その豹変ぶりはその彼に対してだけではなく、他のアシさんにも同様の、実に実に作業に対して「厳しい」方だったのです。
上にも書きましたが、百歩譲って「仕事に厳しい」のは悪い事ではありません。にしても「限度」というものはあるはずだし、相手の人格まで否定するような叱り方というのは「叱る」のでなくただ「怒って」いるだけで、相手を委縮させてしまって決していいパフォーマンスができるとは思えません。
そこへましてや手を出すってのは・・。そのアシスタントさんも、従ってはいましたが明らかにFさんのことを「怖がって」いるのは態度を見てもわかります。時々世間話などしてても全く会話が頭に入ってこない感じでした。
思い返せば、僕もこの仕事始めた時は「叱責」の連続でした。もちろん当時の僕にプロとしての技術がなかったのでそれは仕方ないと思っています。それでもあくまで「技術面」だけの話で、世間話とかはどの作家さんも普通にしてくれていました。
しかしこのFさん、仕事ができるアシスタントとできないアシスタントへの、普段の接し方も全く違っていました。
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この仕事場のアシさんの中にももちろん「チーフ」的な人はいて、かなり仕事の「デキる」人でした。その人が仕事場へ来るとすごく楽しそうで、にこにこしながら仕事をし、仕事場の雰囲気も実に楽し気な感じになります。
僕もかろうじてダメ出しされるようなミスはしなかったのと、元々知り合いの作家さんに頼んで来てもらったという気遣いがあったのかそこまで叱られるようなことはありませんでした。
しかしひとたび「あまり技術のないアシ」さんが入ると途端に豹変します。朝の挨拶もロクにせず、仕事に関係のない話で話しかけられても、まるでそっけない態度。
僕も今までいろんな人に出会ってきましたが、ここまで人によって態度変える人初めてでしたよ。仕事に対してダメ出しは仕方ないとしても、普段からそんなあからさまにイヤな態度とらなくても‥と心の中で思ったりしていました。
そんな感じで、最初の楽しい雰囲気はどこへやら。たとえFさんがその時まで楽しそうにしてたとしても、一瞬で豹変するその態度を見てからは常にFさんの顔色をうかがって会話しなければならないという、僕にとっては苦痛でしかない数日間が続きました。
そして再び最初のアシさんと僕、そしてもう一人の男性アシさん(チーフではない)とFさんの四人で仕事をしなければならない日がやってきた時、僕は意を決してFさんにそれまで思っていたことを言ってしまいました。
というのもFさんが、アシさんが来る前の日に「明日またアイツが来るんで、僕ちょっとまたいろいろ言ってしまうかもしれません。○○さん、スイマセンが我慢してください」なんてことを僕に向かって言ってきたからです。
その時僕は、
「いや・・あの‥まあ、仕事に対して厳しいのはわかるんですが・・できればその・・アレだけはやめた方がいいんじゃないかと・・」と、恐る恐るですが言ってみました。
するとFさん「アレとは?」
僕「いやその・・口で言うのはともかくその・・て、手を出すというのは‥その・・」
Fさん「あ・・・ああ・・あはは・・」
僕(あはは?)
Fさん 「そうっすよね・・あんま気分良くないっすよね・・スイマセン」
僕「い・いえ・・まあ・・も、問題を指摘するのは大事ですけどね‥その・・やっぱ・・ねえ・・」
Fさん「わかりました。気をつけます‥」
意外とアッサリ理解してくれたことに拍子抜けしつつ、これであの嫌な時間はなくなるのかと、少しホッとしていました。
そして次の日。何とそのアシさん、
…来ませんでした(笑)。
どうやら僕が出勤する前に彼からFさんの所へ電話があり、退職させてほしいと言ってきたそうです。
退職理由は聞いたのでしょうが、僕はあえてそれをFさんに聞きはしませんでした(笑)。わかりやすすぎて(笑)。
(今頃彼、肩の荷降りてるだろうな・・)と、なんだか僕自身もホッとしたような、変な気分に。
ただ、そのしわ寄せは確実に僕たちにやってきました。そしてもう一人の若い男性アシが、そのとばっちりを受けるようにFさんからのダメ出し攻撃を受けていました。
しかし一応、僕の言ったことを気にしてくれていたのか、ダメ出しはしても手を出すことはありませんでしたね。かといって決して仕事場の雰囲気がよかったとは言えませんでしたが。
まさかアシスタントが辞めたためのヘルプで僕が入ったというのに、その短期間の間にさらにまた一人アシさんが辞めるとは思いませんでした。おかげで僕に「もう少し来てくれませんか」とFさんにお願いはされましたが、こちらも後の仕事が詰まってると言って丁重にお断りしました(笑)。
かくして当初の依頼通り、キッチリ一週間で私はそこを辞めることになりました。 今はどうなっていることやら…。まあ、あまり変わってないような気もしますが。
結局その仕事場はそのFさんのやり方についていけないアシスタントさんが、入っては辞め、入っては辞めしてるようなところだったようです。
実はけっこうこういう所、あるんですね。スタッフの入れ替わりのやたら激しいところ。
今は雑誌だけでなくwebサイトやツイッター、掲示板などでアシスタントを募集してるところがたくさんありますが、いつ覗いても必ずスタッフを募集してる作家さんがいたりします。そういう所は常に入れ替わってる可能性あります。
まあだからと言って必ずしも地雷とは限りませんが。作家さんとしてもあまり現場の人員が変わることは作業効率的にいいわけありませんので、出来れば長期で雇いたいものです。おそらくはアシさんもそんなすぐに辞めたくはないでしょう。にもかかわらず入れ替わりが激しい現場というものは・・(笑)。
まああまり無責任なことは言えないのであくまで可能性、という程度にしておきます。
これは別に「漫画界」に限ったことではありません。上に書いたように仕事はきちんとお金をもらって働くものなので厳しい部分があるのは当然です。
ただ、それでもあまりにも辛い職場だったり、理不尽な所であれば逃げていいんです。無理して続ける必要はありません。もちろん自分の判断ですが、中には「これは仕事だからこのくらいは我慢しよう」と自分自身で思ったり、あるいは他人に「仕事なんだから甘えるな。このくらい我慢しろ」と言われれたりします。
でもいくら仕事とはいえ限度はあります。最近では「パワハラ」や「モラハラ」などが社会的に問題になってたりして、時にニュースにまでなったりすることがあります。
自らの精神的、あるいは肉体的に悪影響があるのに、我慢して続ける必要は全くないと思います。
自分の気持ちと相談して「ここまでは頑張る、でもこれ以上は我慢しない」という基準を決め、無理のない就業に心がけましょう。
おまけ
ここからはアシ体験記ではなく、僕が担当さんとの打ち合わせの時に起こった出来事です。
それもなんと「連載へ向けての打ち合わせ」でした。
大手の雑誌へ持ち込みを続けていましたがあまり結果が芳しくなかった僕は、創刊したばかりの新雑誌にわずかな望みをかけていました。投稿作が運よく認められ、なんと初掲載!見事雑誌デビューを飾ることができたのです。
そして、そのあと連載デビューへ向けて、担当編集さんと打ち合わせを続けていました。
3話分のネームを作ってさあこれでいよいよ連載デビューだ!と息巻いて担当さんへ電話をする僕・・。
しかしいくら鳴らしても相手が出る気配がなく・・
「忙しいのかな?また後でかけてみよう・・」30分後、一時間後、三時間後・・
いくらかけても電話出ず。
メールにも何度も「ネームができたので確認お願いしたいです。」と打ちましたが返信なし。
次の日も、また次の日もかけましたが応答なし。不審に思った僕は雑誌の編集部へ電話をかけて担当さんの所在を確かめようとしましたが、なんとそこで驚くべき返事を聞かされることになったのです…。
おそらくは編集デスクであろう方と話ができた僕は、担当さんと連絡がつかない旨を伝えました。何ならそのデスクにネームを見てもらってもいいくらいに思ってもいました。しかしデスクから帰ってきた言葉は・・・。
「あ、ちなみにこの雑誌ね、来月で休刊することになったから。」
僕「?????!!!!!!」
休刊・・・それは作家にとって打ち切りの次に怖い言葉。言葉自体は「休み」になってますがこれは単なる建前で事実上の「廃刊」。つまり雑誌がつぶれるってこと。
正直今もまだ出版不況なんて言われてますが当時は今以上。まだネット環境もそこまで整ってなく「WEB漫画?なにそれ?」な時でしたから、それこそ紙媒体で失敗したらそれで終わりな「出版業界大不況」の時代。
電子書籍が騒がれ始めていたもののまだそこまで主流になるとは思えず、やはり「マンガは雑誌で読むもの」という意識が根強かった時です。実際いろんな雑誌が現れては消え、現れては消えしていました。
大手がかろうじて新しい雑誌を出して、仮に売れなかったとしても既存の雑誌の売り上げで何とかやっていけるという状態なので、小さな出版社などは頑張ってヒット作を出すか、よほどの大御所に頼み込んで描いてもらうかしない限り半年か一年で休刊がザラでした。
僕が打ち合わせをしていた雑誌もまさにそういう所で、僕自身「ここ、本当に大丈夫かな‥」なんて思いながら漫画を投稿したのは事実です。
しかし、打ち合わせをして行く中で僕の担当になった人が僕と同世代で、初対面から意気投合、好きなマンガやアニメなどで大いに盛り上がった方だったこと。そして将来の漫画界について実に「アツく」語る人だったので僕はすっかりその担当さんが好きになっていたのです。
打ち合わせのあと飲みにも行ったりして、その時にも
担当さん 「○○さんは自由に才能発揮して僕に挑んで来てください。僕も真剣にお付き合いいたします。意味のあるケンカならいくらやってもいいと思う。頑張りましょう!」と固い握手を交わしたものでした。
その時に去っていく担当さんの後姿を見て
「この人とならいいマンガができそうだ}
と、酒の酔いも手伝って非常に興奮したのを覚えています。
その人が…ですよ。何度連絡しても音信不通。
もちろん連載がパーになったこともショックでしたが、なんだか「信頼してた人に裏切られた感」のような、むなしさというか虚無感に襲われ、しばらく何もする気になりませんでした。
結局その雑誌は予想通りの休刊。その担当さんとも、結局その時から会えずじまいです。
ただ、実はその人もその出版社の社員でなくフリーの編集さんだったのです。つまり雑誌社と契約を結んで雇われてる人。その契約が切れればその人もその出版社とはおさらばになります。
なので、彼は彼でいきなり雑誌が休刊になり仕事を失ったわけで、他人にかまってる場合じゃなかったのかもしれません。今ならそう思うこともできます。
しかし当時は「いくら急に休刊が決まったとはいえ、だったらそれを俺に連絡してくれてもいいじゃないか・・連絡してるのわかってるだろうに一切無視ってどういうことなんだ・・」と、彼に対する不信感でいっぱいになっていました。
かくして僕の初連載話は、あと一歩のところで「立ち消え」になりました。ただでさえFさんのところで神経をすり減らし、そのあとでこれですから、当時の僕の精神的ストレスは相当なものでしたよ(笑)。
以上、久しぶりの体験記なのに2つとも今回はあまり景気のいい話できなくてすいません。
でもこれはどちらも現実にあった話です。華やかな世界だけじゃなく、こういう「裏」の部分もあるんだよということを知ってもらう必要もあるんじゃないかと思ってあえて記事にしてみました。
だからと言って変にビビる必要はありませんが、マンガ家というものはこの担当さんのように「フリーランス」と同じです。いつクビを切られるかわからない、会う人会う人がほとんど初対面、そして当たり前ですが「いい人ばかり」とは限らない。
その点を踏まえた上で仕事をするということも大事だとお伝えしておきます。ただもちろん相手が理不尽だからってこっちも理不尽にしていいというわけではありません。
我々は使ってもらう立場ですから、そこはきちんと礼儀は踏まえて、かといって信用しすぎず「いい関係」を作っていくための努力をすることは重要です。
難しい話かもしれませんがフリーランスで仕事をするというのはそういうことです。逆に仕事を頼む相手の立場からしても、どこにも所属してない人間を雇うのは勇気がいるもの。
誠実な対応を心掛け、信頼を少しずつ増やしていく。フリーランス、いや漫画家は作品そのものだけでなく自分自身を商品にして売っていくものだと考えていいでしょう。
なるべくどこに出しても恥ずかしくない「質のいい商品」でありたいものです。
というわけでマンガ業界におけるちょっとした「裏側」のお話でした。ではまた。
つづく
(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)
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