つらかった‥でもいい経験でもあった。「たった一人の修羅場体験2」 漫画アシスタント体験記第39話

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さて、一人自宅にこもって30ページの読み切り原稿を描く、しかも一週間で‥。この無謀極まりないチャレンジをほとんど何も考えず見切り発車で始めてしまった私。

しかし一週間なんてあっという間。残り10ページ以上を残して月末がやってきました。仕方なく編集さんに電話をしたところ、「少しくらいなら過ぎてもいい」というお返事。

お世話になっている作家Mさんにも許可をもらい、私はとにかく作品を最後まで描き上げる決意をしました。

ただ、担当の編集さんのスケジュールの都合上、できるだけ月が開けて4日までには編集部へ持ってきてほしいとのこと。

月末の今日を入れてあと5日。

少しは伸びたものの、いずれにしろキツキツなことには変わりはない。 だが今度は間違いなくその日がデッド。ここには絶対間に合わせなければ。新たな決意のもと、残りの原稿に命を燃やす私であった。

 

なんだかんだで最終日!しかしとんでもない事件が…!

 

最後の方はほとんど食事らしい食事もとれず、一心不乱に描きまくった結果、何とか3日の夜には出来上がる可能性が出てきました。 しかし突貫工事で描き上げた原稿にはミスも多く、しかし十分な手直しも出来ぬまま、とにかく最後まで描いてからあとは編集部で直してでもいいや、ととりあえずはコマを埋めることに集中していました。

そしてようやく最終日の3日。かなり遅い時間にはなりましたが、残すところあとはキメゴマのトーン作業だけというところまでこぎつけました。

 

最初からやろうやろうと思ってはいたものの、技術のいる削り作業に、ずっと避けていたコマでした。

しかし、それを終えればこの原稿も終わりという状況になったことで、最後の気合を入れ直しそのコマのために用意していたグラトーンを貼り、最初のボカシ削りを入れたところで

 

 

思い切り失敗してしまいました。チーン・・・・・

 

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「いやああああああああああ!」

 

思った以上に削りすぎ、何とか立て直そうとすればするほどおかしくなりとうとうその一枚のグラトーン丸ごと無駄にしてしまうことに。

グラトーンの面倒なところはここです。ただの網トーンならあとから別のものを継ぎ足してごまかすことはできますが、その名の通り「グラデーション」のついたトーンは一か所失敗すると継ぎ足しができず、全部がパーになります。

 

でも大丈夫。こんなこともあろうかと余分に同じものを買って・・買って・・買って・・

 

「なあああああああああああい!」

 

同じものを何枚も買ってあったと思ったのですが何を思ったか肝心なそのコマ用のグラトーンはそれ一枚しか買ってなかったという大チョンボ。最初に書いた「地獄」とはこのことだったのです。

何とか他のトーンで代用できないか試してみたもののやはりどうしてもそこは自分の考えていた一番の見せ場シーン。できれば妥協したくない。どうしてもそのグラトーンを貼りたい。

時刻は夜8時を少し過ぎたとこ。結局は今からでもお店に買いに行くしかありませんでした。

自転車を飛ばせば30分もあれば着く。迷ってる暇はありません。ぐずぐずしてると閉店になってしまいます。とるものもとりあえず自転車にまたがり夜の街へ。

帰宅者でにぎわう繁華街を抜け、トーン売り場のある文具店へ駆け込みました。が・・・

 

なああああああああああああああああああい!

 

なんと、お目当てのトーンがありません。そういえば買った日にもあと残り一枚あるかどうかだったような‥なんか少ないなーと思った記憶が‥だったらなぜその時全部取らなかったのか・・いくら考えてもわかりません。

これはしかし想定外でした。どうするか‥ここから新宿にある大きな文具店までは電車で30分程・・行って帰ってなんだかんだで1時間半、ここに来るまですでに30分以上経ってますからトータル二時間以上はロスすることに‥しかもそっちへ行ってまた「なかった」なんてことになったら目も当てられない・・。諦めてやはり他のトーンで代用するか‥。

 

しかし悩んでる時間ももったいない。結局私は、せっかくここまで出てきたのだからと行くだけ行ってみようと決意しました。

汗だくの体、髪もボサボサ、風呂にも入ってないこの状況で電車に乗るのはかなり勇気のいる話でしたが背に腹は代えられません。幸い帰宅ラッシュとは逆方向だったため満員電車は避けることはできました。

楽しげに談笑するカップルや気持ちよさそうに笑う酔っ払いサラリーマン集団にまぎれながら電車の時間を耐え、やっとの思いでお店に入ったのは閉店まであと20分というぎりぎりの時間。

このお店にはお目当てのトーンがありました!しかもどっさり(笑)。早速買い込み、他にも足りなそうなトーンや道具を補充して一目散に帰路へ。

さああとは帰って最後の仕上げと行きたいところでしたが、この時点でもすでにかなり焦っていた私。最後の最後にまた大変なことが‥。

 

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自分史上最速で自転車を飛ばした私の目の前に現れたのは‥

 

ここでまた「次回へ」なんてやったらさすがに怒られるので今日は最後までいきます(笑)。 

駅を飛び出し、一目散に家へと向かう私。この時はもう、何も他のものが目に入りませんでした。とにかくあと少しで完成、睡眠時間も食事時間も削って約10日間カンヅメ状態となっていたこの状況がいよいよ終わるんだ、最後の追い込み突っ走るぞ!と心も体もテンションMAXで足がちぎれんばかりにペダルをこいでいました。  すると・・・・

 

「ピピイ―――――――――――ッ!」

 

車の多い車道を避け、歩道を走っていた私が前を歩いてる女性二人をものすごい勢いで追い抜いたその時、目の前に「赤い棒」を持った黒い服装の男二人がにらみつけるような形相で私の自転車に立ちはだかるように現れました。

 

 

(誰だよこの俺の熱い衝動を邪魔する奴は‥)

 

 

 

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お巡りさんでした。

 

 

「何やってんの!危ないよ!しかも自転車は歩道じゃなくて車道走って‼歩道は歩行者優先だよ!」

私と同世代くらいか少し上の若い警官がまくしたてます。もう一人の年配の警官は、いかにも「怪しい奴」を見るような目でジロジロ。

 

不覚でした。確かにここは警官がよく立ってて自転車の無灯火などを検査してる地点ではありました。でもいつもはもっと遅い時間だったはずなので、まさか今の時間にいるとは思わず…

ただ彼らにしてみればあまりの猛スピードで危険極まりない運転をしながらこっちへ向かってくる若造にさぞかし面食らったでしょう。慌てて止めに入ったということらしいです。

 

そこからはしつこい説教&検問です。盗難車ではないかと念入りに自転車を調べます。私は汗だくになりながらも状況を説明しますが、こういう時困りますね。

 

「いや実はですね、新人漫画賞の締め切りが迫ってて、なんと30ページを一週間で完成させるんですよ。無謀でしょう。やっぱり間に合わなくて一週間を十日まで伸ばしてもらい、やっとのことで間に合うと思ったら今度はトーンが無くなったでしょう。お店も閉まりそうだし焦って買いに来たらその店にはそのお目当てのトーンがなくってですね‥」

 

そんなこと説明しても簡単にわかってもらえるはずありません。いろいろくどくど説明してる間にも、時間はどんどん過ぎていきます。

なんとなく「危険はなさそう」とわかってくれたはいいですが、今度はまた二人がかりで説教&説教。

もう私はとにかく早くここを逃れたくて、平身低頭「はい、わかりました、はい、はい」ととにかく低姿勢を貫きました。変に逆らって交番まで連れていかれた日にゃおしまいです。

もう泣きださんばかりに必死でした(笑)。その姿に哀れさを感じたのか今度はなんだかお約束の人生訓めいたものを語りだす年配のおまわりさん。

あれなんなんですかね。昔 自動車運転してて捕まった時もそうでした。よくテレビで「警察24時!」なんてやってますが大体そうですよね。スピード違反や酒気帯びで捕まった人相手にお説教が始まり、最後には「君もまだまだ若いんだから‥な?」みたいな。必ずなんか最後には「いいこと」言わないといけないマニュアルでもあるんでしょうか(笑)。

ともあれしばらくして解放されましたが、結局この検問のせいで、出かけてからすでに3時間はとっくに過ぎ、もはや真夜中。

 

結局最後のコマを完成させるのに明け方近くまでかかってしまいました。

 

ほとんど寝ずに編集部へ。そして結果は…。

 

とはいえ、それでもとにかく締めの4日までにはギリギリ完成。トータルで10日。30ページを十日ですよ。今じゃ絶対できません。軽くシャワーを浴び、原稿を持って編集部へ。

 

「おお 間に合ったか、お疲れさん」という何ともあっさりとした担当さんのお出迎えを受け、その場で編集チェックを受けることに。すると、出るわ出るわ ミス、足りない部分、はみ出し、トーンの剥がれ、汚れた部分、わかりにくい部分・・。

1ページ1ページ指摘され、その都度その場で直すことに。ここには道具もトーンもある程度揃ってます。『最初からここでやれたら楽だったなあ・・』なんて考えながら、結局夕方近くまでかかってようやく「完成」となりました。

 

「いやーお疲れ。よく頑張ったね。じゃ、結果は今月半ばごろにはわかるから。Mさんにもよろしく言っといてね。飯でも食いに行こうか。」

 

その後のことはあまり覚えてません(笑)。ひたすら疲れてたのと、脱力感と、飯をごちそうしてもらった満腹感で急激な睡魔に襲われ、帰る電車の中でも爆睡、家に帰ってからも本当に「死んだように」眠りにつきました。

 

ここまで読んでくださってありがとうございました。いやーしかし、自分でもよくこんなことやったなと思いますが、決して皆さんにはお勧めしません。まーやる人もいないでしょうが。

正直、「クオリティ」に関してはひどいものだったと思います。最後のギリギリで仕方なく追い込みかけるのはいいんでしょうが、今回の場合はもう最初から追い込みかかってる状態。

これでしっかりとしたものができるはずありません。やはりある程度時間かかってもきっちり仕上げる方が自分の気持ちも、観る人にとってもいいと思います。やはりどうしても「やっつけ感」が出てしまいます。

素人目にはわからないかもしれませんが、プロには一目瞭然です。今回は編集さんの後押しがあったのでまだいいですが、何もなくてそんな「やっつけ原稿」見せられても、読者でいい印象持つ人がいるはずありませんからね。

もちろんある程度のスピードは必要でしょうが「自分の実力」をしっかり見極め、無理のない作画計画を練るのも、プロとしてやっていくために必要なスキルだと思いますね。

ただ一応自分の中でこの無謀な挑戦をとにもかくにも「やりきった」という達成感はありました。

やりゃできるんだなという自信になったのも事実です。

 

 

いや、ほんと長々とお付き合いくださりありがとうございました。

 

 

 

 

え?   あ、そうですね。結果言ってませんでしたね。今回の私の作品・・編集部、そして作家さんたちの評価は‥ドロロロロロロロロロ  ジャン!

 

「佳作」

 

惜しくも入選ならず。 雑誌掲載はまたの機会に・・て感じです。

 

まあいいさ。それでもそこそこのお金にはなったから・・・・はあ、ぐっすん。

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

新たな仲間はまた個性的な‥ そして現実の厳しさ。漫画アシスタント体験記 第40話

 

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