真面目で実直 僕ソックリ?(笑)新人アシFくん奮戦記  漫画アシスタント体験記 第51話

アイキャッチ13 漫画アシスタント体験記

こんにちは OYUKIHANです。

 

またまた久しぶりの体験記、今回は ある一人の青年にまつわるエピソードです。

私もこの業界長いので、様々な先輩や後輩がいろんなところでできました。

個性的な人、好きな人嫌いな人、職業柄なのかいろいろインパクトのある方々ばかりで、正直ネタには困らんというくらいバラエティに富んでましたね。

その中のひとり Fくんもまた個性的な「愛すべき後輩」のひとりでした。

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真摯で真面目な熱血漢 Fくん

 

当時私は新しい作家さん、Nさんの所にお世話になっていました。この方もけっこうな有名作家。

この頃の私は前の記事でも書きましたがそこそこ技術的にも自信がついていて、人に教えることが多くなってきたくらいの頃でした。
そこの現場でも即戦力としてしょっぱなから難しい作業も割り当てられたりしてたのです。

スタッフの入れ替わりも激しい現場で、入って半年くらいで僕より先にいた人は一人辞め二人辞め、いつの間にか僕が一番の古参に(笑)。

新スタッフを3人ほど募集した時に入ってきたのがこのF君でした。(というかこの三人ともけっこう個性的なので他の人の事も別の記事で書きたいと思います。)

Fくん、島根県出身。22の時 『漫画家になる!』と夢を抱いて単身上京。バイトしながらマンガを投稿し、賞をもらい、担当さんの紹介でやってきました。

まるで自分を観てるよう(笑)。

ただ僕と違う所は父親が病気がちで、仕事もままならない状態だという所。母親は健康ですがご両親ともに願いは「F君には田舎に帰って地道に就職してほしい」というものでした。しかし子供のころからの夢が諦めきれないFくん、親の反対を押し切り、5年の期限を決めて出てきたのです。

それだけに仕事熱心さ、マンガに取り組む姿勢は真摯で、まさに見習うことばかり。性格も真面目で、朝出勤はみんなより少し早め。

仕事場の掃除など雑用を率先してこなし、明るさやちょっと「いじられキャラ」の要素もあって職場でもあっという間に人気モノになりました。

 

性格はいいのだけれど…

 

ただ、もちろんこの世界は実力が全て。性格なんか悪くたって実力がある人の方が出世する世界。

 

性格の良さは折り紙付きのこのFくん、マンガの実力派と言うと…

正直僕から見ても「ちょっと厳しいかも・・」というレベルなのでした。

もちろん漫画家を志すくらいなのでそれなりに絵心はあります。ただそれでも「プロ」としてやっていくにはあまりにも実力不足なのがはたから見てもわかるものでした。

いやもちろん、僕のアシスタント初日に比べればと思うのですが・それがどっこいどっこい。下手するとあの時の僕の方がまだ少しはましだったかもしれません。

素人さんに少し毛が生えた程度の、とてもすぐにプロで生活できるようなレベルではありませんでした。

まだ若ければ将来性も見込んでという部分はありますが当時でF君はすでに26歳。そして5年間の期限まであと1年を残すのみという状態。時間が全くありません。

まあしかしこの世界、絵の実力はそれほどでなくても「面白いもの」が描ければなんとかなる世界でもあります。

で、F君の描く漫画の内容はというと実にストレートな熱血モノ。彼の性格をよく表している直球ど真ん中な感じの少年漫画。しかしだからこそライバルは多く新人が入り込むスキマなどないような難しいジャンルです。

案の定、ネームを何本も描いて編集さんと打ち合わせを繰り返すのですがやはり何度もボツを食らい掲載のメドなど立ちません。

しだいにF君の表情にも余裕がなくなり始めていました。5年の期限はその年の大みそかまで。それまでに漫画家として生活していけるだけの見込みが立たなければ、田舎に帰って就職する。それがご両親との約束です。

そしてその期限まであと半年を切るところまでやってきてしまいました。

意を決したFくん、今の担当さんのいる編集部を諦め、別の出版社に投稿し新たな可能性を探ることに。

もちろんこれは悪い事ではありません。医療の世界で言う「セカンドオピニオン」じゃないけれど、その雑誌で合わないだけという場合もあります。「進撃の巨人」のように他の雑誌へ持って行ったらいきなり採用されて大ヒット、なんて例もありますからね(ジャンプ→マガジン)。

しかしそのためには作品を一本上げなければなりません。今は「ネーム大賞」などと言って作品を完成させなくてもネームだけで受け付けてもらえるシステムなどがありますが当時は全て「完成原稿」でなければダメな時代。

それに仮に描き上げて賞に応募し、運よく授賞したからといって状況は今と同じ。また打ち合わせの日々が始まるだけです。とても田舎のご両親を安心させてあげられるほどの成果がこの短期間で得られるとは思えません。

しかしFくんとしてはもうワラをもつかむ感覚で「ほんの少しでもとにかく明日につながる見込みのようなものがあればいい」そんな感じで、自身「最後の挑戦」とばかりに読み切り一本を描き上げて某新人漫画賞に挑みました。

 

が・・・・結果は・・・

 

撃沈orz。

 

まさかの一番下の賞にも入らず。

 

その時のF君の落胆ぶりは、そばで見ていてもホントかわいそうになるくらいでした。いつもの彼の明るさはどこへやら。仕事でもミスを連発し、作家さんにも叱られ、まさに踏んだり蹴ったりでした。

これでは仕事場の作業そのものにも悪影響があると思った僕は、仕事帰り、あまりしないことですがF君を誘って僕のおごりで飲みに行くことに。

 

F君の夢の話から自分自身の将来まで

 

二人きりで居酒屋に入り、お互いの夢や漫画への思いなど、ほどよく酒も入って実に饒舌にそして「アツく」語り合いました。

そこではじめてF君の身の上話も聞かされたのです。

F君は小学校低学年の時に転校した先の学校でイジメられていたそうです。もともとそれほど社交的ではないFくんはいじめっ子には格好のエジキだったんでしょうね。

それが、ある日何気なくノートに描いた当時の担任の先生の似顔絵がみんなの目に留まったのです。

実に特徴を捉えていて面白い。そして次々に他の先生の似顔絵を描くとこれまた好評。次第にみんなから好意的に見られ始めます。

やがて学級新聞に描くイラストを頼まれるようになり、俄然張り切ったFくん、クラス全員をキャラクター化した漫画を面白おかしく描いたのです。

するとこれが大評判。いつの間にかクラスの人気者になっていました。そうしてるうちにだんだんとイジメもなくなっていったということです。

F君にとって漫画は「自分をイジメから救ってくれた救世主」なのです。

僕にも似たような経験はありますね。特に小学校の頃はちょっと絵が描けるだけで結構一目置かれたりするものです。実際大した絵ではないんですがそれでも田舎の小学生の間では「少し絵心がある」だけでも人気者になれたりします。女の子にもチヤホヤされたりして、それでカン違いしちゃう場合もあるんですよね(笑)。

とにかくF君はその時以来漫画に対し並々ならぬ情熱を注いだらしいです。

そしていつしか「自分の描いた漫画で、今度は別の誰かを救いたい」と思うようになったと言います。そんなふうにまっすぐな目で夢を語るFくんに、酒も入っていたせいか感動して涙が出そうになりましたよ。

そして逆に自分を振り返って「自分は彼のように今でも純粋に夢を語れるだろうか‥。」と真面目に考えてしまいました。確かにマンガの世界にはいるが、ただ目の前の仕事をこなすだけで精一杯になってる自分が少し恥ずかしくなったのも事実です。

 

ただそこまで漫画に力を注いでいたとしても、プロでやっていけるかどうかはまた別の話。夢の話はともかくF君の今の現状を考えるとその夢も「がけっぷちに立たされている」といったところでした。

実はこの時すでにご両親から頻繁に連絡があり、そのたびに「早く帰ってこい」と催促されていたらしいのです。答えに窮したFくん「次の新人賞で入賞すればまだ可能性はある。とにかく結果が出るまで待ってくれ」となんとか結論を先延ばしさせようとしていたのでした。

それだけに結果が「なんの賞にもかすらなかった」ことは、F君にとって普通の時よりも大ショックだったのです。

それをそのまま両親に伝えればどう言われるかは目に見えています。いよいよ切羽詰まったFくん、「両親には、入賞したとウソをつこうかと思ってるんです‥。」とまで言い出しました。

僕は「気持ちはわかるがそんなことしたところで状況が変わるわけではないぞ・・」とたしなめました。

「ご両親はお前が漫画家としてやっていけるのかの確証がないから止めてるんだろ?すぐに連載でも始まるならまだしもこれからまた何年も同じ状態が続くかもしれないのに安心して好きにさせてはくれないだろ。」

「それこそお前がいくら大丈夫だと言ったって信用してくれないだろうしな。編集さんか誰かが、お前の実力を認めてて両親を説得でもしてくれりゃ別だけど・・。」

 

僕がこういった瞬間、それまで黙りこくっていたFくん、何かを思いついたように突然「そうか・・・」とだけ言い、それ以降はこの件に関して何も言わなくなりました。

なんだか嫌な予感はしましたが、その日はとりあえず終電近くまで飲んだあと解散。

Fくん「今日はありがとうございました。一人で抱えてるもの吐き出した気がして少しスッキリしました。気持ち切り替えて頑張ります。」

確かに少しつきものが取れたような、以前のさわやかな笑顔で返すFくんに「まあ何とか大丈夫だろう‥」と一安心し、帰路につく僕。

 

ところが・・・

 

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作家さんの部屋に呼び出され・・何かと思えば

 

暫くは何事もなく過ごしていた仕事場。ある時ふと、そこには作家のNさんとFくん、そして僕だけという日がありました。そしてFくんが別室にあるNさんの仕事場に入ったきり、しばらく出てこないことがありました。

気にはなったものの自分の仕事もたまっていたので作業を続ける僕。

と、部屋の中から「おーい○○君、ちょっと来てくれ」と、Nさんが僕を呼ぶ声がします。

何かと思いNさんの部屋を開けて中に入ろうとすると、奥の机にNさん、そしてその前で正座をし、こちらを向こうともせず何やら懇願するような目でNさんをみつめるF 君の姿が。

 

ただならぬ雰囲気を感じて立ちすくむ私に、Nさん

「○○君、F君が何か俺に頼みがあるって言うんだけど‥」と困惑したような顔で話します。

 

F君の頼み事とは・・・Fくんのご両親をNさんが説得してほしいというものでした。

「F君がいかに将来有望で、必ずマンガ家になれる才能を持った優秀な新人か。自分も精いっぱいバックアップするのでぜひこれからも漫画の道を続けることを許可してほしい」

という趣旨の事を「Nさん自身の言葉」で両親に伝えてほしい、というとんでもないお願いでした。

 

その時僕は「あっ・・」と思いました。居酒屋で飲んだ時、私の発言の後彼が黙りこくった理由。

「お前がいくら大丈夫だと言ったって信用してくれないだろうしな。編集さんか誰かが、お前の実力を認めて両親を説得でもしてくれりゃ別だけど・・。」

僕が言ったこの言葉を彼は覚えていて、その「説得してくれる相手」を、現役の漫画家であるNさんに頼むのが一番効力があると考えたらしいのです。

僕が部屋に入ってくる前にはF君は本当に「土下座」までしてNさんにそのことをお願いしていたようでした。

必死なのはわかります。しかしそれはいくら何でもやりすぎです。

 

Nさんも「悪いけどそんなことはできない。ご両親にウソをつくことになるし、もし君が漫画家になれなかったらそれは僕の責任になる。軽はずみなことは言えないよ。」

と、実にもっともな理由でF君の要求を断りました。

 

落胆する彼にかける言葉も見つからず・・。そのまま彼をNさんの部屋から出すことが僕にできる精一杯でした。

人間切羽詰まるととんでもないことをしたり言ったりするものです。でも、確かに今回のF君のしたことはNさんにも失礼な話でもちろん褒められたことではないんですが、僕自身彼のその無鉄砲な積極さに対して少しうらやましさを感じていたことは確かです。

彼の中にある「何としても漫画家になりたい」という情熱がそういう突飛な行動をさせるのでしょう。もちろん、であるならば彼がすべきことは「いいマンガを描く」以外にないんですが、時間がない彼にとってはもはや「どんな手段を使っても」という気分になっていたのでしょう。

ある意味でその破天荒さ、積極さはうらやましくもありました。確かに僕も漫画家になりたい気持ちは同じですが果たしてそこまでできるかと言われたら自信はありません。

 

ともあれその後の仕事場の雰囲気は・・・察してください(笑)。

 

 

その後F君はどうなった?

 

少し話が長くなりましたが、先に延ばしても仕方ないので最後まで書きます。

 

その後、しばらくは普通に仕事をしていたF君でしたが、その年の年末に僕が仕事場のベランダで休憩を取っているとおもむろにF君も仕事場から出てきました。

しばらくたわいのない会話をし、話が途切れたころを見計らってかFくんが一言ポツリと言いました。

 

「僕・・漫画家諦めて田舎に帰ることにしました。」

 

突然の告白に面食らった僕に、Fくん「いろいろ相談に乗ってくれてありがとうございました・・。」

と、僕の方を見ずにそう言いました。なぜ僕の方を向けなかったのか・・。

 

彼は僕に語りかけながら「泣いていた」からです。

それを察した僕もF君から視線を外し・・。しばらくFくんが静かに嗚咽するのを、何も言えず黙って聞いているしかありませんでした。

やがて涙をぬぐって仕事場へ戻ろうとするFくんに握手を求め、「頑張れよ」と言ってあげるのが精一杯でした。

 

 

それからのF君は、その年の仕事納めの日までまた元の「元気で明るいF君に戻っていました。まるで重い荷物を降ろしたかのように彼の笑顔は実に清々しく、ハツラツとして見えました。

そしてその年のお仕事最終日、作家のNさんを交えた職場のみんなで忘年会&Fくんの送別会を行いました。

最後まで彼は明るく、もうすでに職場の全員が知っていた例の「土下座事件」も自ら笑い話にして盛り上げていました。

多少のヤケクソ感も感じましたが(笑)。

 

そうしてF君は5年間の漫画修行の旅を終え、島根の実家の方へ戻っていったのです…。

 

夢を叶える 夢を諦める

 

夢を見るのはいいことです。そしてその夢をかなえようとみんなそれぞれに努力を重ねています。

しかし当然ながらみんなが夢をかなえられるわけではありません。夢を諦めるのは 夢を叶えるの3倍くらいエネルギーが必要なくらいの大変な勇気のいることです。

僕も彼と境遇はほぼ同じ。今でも確かに漫画を描いて暮らしてはいますが、ここがあの時夢に見ていた場所なのかといえば、かなり違っていることは確かです。

今はネットでも漫画は描けるし、以前よりは門が広い気はします。まあ当時でもネットはあったのですが、マンガの世界がここまでネットに進出するとはその時は思いもしませんでした。

Fくんも既存の商業誌だけでなくネットやケータイ漫画などに視野を広げてたらどうなってたか・・。まあそれなら田舎にいてもできるし、ひょっとしたら現在どこかで活動してるのかもしれませんね。今となっては知る由もないですが。

その道のプロになるのは、どんな道でも大変です。続ければプロになれる職業と違い、マンガ家は続けたからといってなれるとは限らない厳しい世界。

今さらながら大変な世界に飛び込んだもんだなと思う今日この頃です(笑)。
 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

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コメント

  1. ひよう より:

    こんにちは、前回うっかり「しょこら」でコメントしてしまいましたが、ひようです。
    (しょこらはゲームなどで使ってる名前でした、うっかり間違えました^^;)

    体験記ここまで全部読ませていただきました!
    一番大変そうな記事だろうな…と思い後にしていたのですが、本当に大変な…努力なんて
    言葉じゃ足りない程、苦労されてお力をつけてこられたのですね…

    とにかく、とてもインパクトがあって為になるお話ばかりでした。

    他のカテゴリー共々、これからも楽しみにしております!

    • hiro より:

      改めましてひょうさん、コメントありがとうございます!
      お恥ずかしい私の失敗談を読んで、「こんな奴でも何とかやっていけるんだ」という安心感と、ある意味「反面教師」的な部分と両面で楽しんでいただければ(笑)。

      はい、これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします。