アシ生活の中での私の黒歴史・・漫画アシスタント体験記第44話

アイキャッチ2 漫画アシスタント体験記

さて、いろんなことがありながらもなんとかそこそこ楽しいアシ生活を続けていました。

漫画家さんや他のアシさんも、厳しい人もいますが基本はいい人ばかりで、そんなに不満もなく自分の漫画に集中したりして有意義な毎日を過ごしていました。

が‥中にはやはりどうしても許せない、嫌いな人もちらほら、いることはいます。今回は私のアシ生活の中でも最も忘れたい、黒歴史について語ります。

と言ってもまあいつも通り、大した事件ってわけではありません。自分の中で忘れたい記憶ってだけで、別にニュースになったりとか大きな話ではないのであまり期待せずに読んでください(笑)。

 

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若いうちからデビュー、ちょっと「お天狗な彼」

 

この業界は全て実力主義。年齢が若かろうが何だろうが売れたもん勝ち。ある意味わかりやすい世界です。それはいいのですが、ある作家さんの言葉で「才能と性格は比例しない」というのがありました。つまり真面目でいい人が売れるとは限らない、という事。

まあそりゃそうですよね。真面目でいい人が売れるならみんなそうします。いやむしろ才能のある人ほど、どこか「普通でない」人が多い気がします(何をもって普通かはこの際置いときますが)。

したがって作家さんの中には性格的に付き合いづらい、できれば近くにいてほしくないなという人もたまにいます。でも売れっこ作家だと特に編集さんは付き合わないわけにはいかず。アシスタントもその作家の「殿様気質」「お天狗様ぶり」に振り回されることもしばしばあることです。

ただそれも相当な有名作家ならまだしも、そこまでではないにも関わらずそうなってしまう人も、たまにいます。今回の主役、仮にB君としましょう。彼もそんな人でした。

 

年齢は私よりずっと若く、十代で新人漫画賞を受賞し、読み切り掲載、20歳で別冊ではありますが隔週連載経験と、割とトントン拍子に漫画家生活をスタートさせた人。

それだけに、彼の自信家ぶりははたから見ていて「わかりやすっ!」と言えてしまうほど見事なモノでした。

しかもそのBくん、どうやら学生の時相当イジメられていたらしく、かなり辛い学生時代だったようです。それが漫画家になりあっという間に連載スタートですから、「人生逆転!」「これからは俺の時代!俺をバカにしたやつらを見返す!」という意気込みにあふれてしまうのも無理のない話です。

 

そんな彼のもとに、仲間からの紹介でアシに行くことになった私。紹介してくれた人はB君が連載する前、少しの間アシをやっていたころの先輩でした。Sさんとしましょう。人手が足りないので誰かいないかと頼んできたので、私を紹介してくれたのです。

Sさんには私もお世話になっているし、ちょうど私もその時体が空いていたので「ああいいですよ」と気軽に返事をしました。

 

 

評判は聞いていたが・・想像以上だった彼。

 

実はそれ以前に、彼の評判についてはSさんから聞いて知っていました。いやSさんだけでなく、当時彼と一緒に働いていた仕事仲間から、「彼のヤバさ」は耳に入っていたのです。でもあまりそうやってみんなから「ヤバいヤバい」言われると、なんだか逆に「会ってみたい」と思うのが人情(笑)。

私はひそかに彼に会うのを楽しみにしていました。

 

いよいよ初出勤日。彼の仕事場も夕方始まりでした。私の家から近かったのと駅から徒歩15分という事だったので出勤自体は楽。しかし、その「仕事場」へ行きつくまでにひとつ問題がありました。

実は彼の仕事場へ行くのに最寄駅からの「地図」を書いて送ってもらったのですが、その地図が手書きで、しかもどういう方向感覚をしてるのかわからないような、読みづらい地図だったのです。

「小学校」と書いてあるところに小学校が無かったり、全然違うところにあるはずの「公園」がすぐ近くに書いてあったり。

完全にその地図を信頼して下調べをしなかった私は、現地に行ってから迷いに迷い、かなり余裕を持って出かけたはずがもう出勤時間ギリギリ。

結局困り果てて近くに住んでいる人に聞く始末。地図を持ってるのに人に聞くってどういうこと?と思われながらもその地図を見た女性、「なにこれ?全然わからん」

近隣の住民さえ首をかしげる難解な地図を、それでもなんとかかんとか読み解いて(笑)ようやく仕事場についたのは仕事が始まる2分前の事でした。

 

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見た目は普通・・しかし仕事が始まってみると‥

 

 

はじめて会ったB君は、少し小太りな小男。でも笑うと愛嬌があって見た目はどこにでもいそうな若者でした。

挨拶も普通で、初対面の印象は決して悪いものではありませんでした。

ちなみにアシスタントは私ともう一人若いアシスタント君の二人きり。その彼も昔の仕事仲間らしく、ヘルプで来ているだけという話。

どういうわけか、アシスタントさんが来てもすぐ辞めていくらしいので、決まったアシさんがいないらしいのです。もうその時点でここがいわゆる「地雷」なのが想像できます(笑)。

三人が、仲間を通じたいわば身内同士のようなものなので、仕事中の会話もやはりお互いが知っている仲間内の事についての話が中心になってきます。

最初は普通に楽しく会話してたのですが・・・だんだんと打ち解けてくるとなぜ彼が周りから「ヤバい奴」と呼ばれているのか、少しずつその片鱗が顔をのぞかせてきたのです・・・。

 

要するに彼の特徴はと言うとですね‥

 

悪口

 

です。仲間の悪口。売れている作家の悪口。自分以外で同じ雑誌に連載している作家さんの悪口。編集さんの悪口。雑誌の悪口。もうとにかく、徹頭徹尾「悪口」ばかりなんです。

 

私を紹介してくれたSさんの事も「あいつは話づくりが下手だからダメなんすよ」

Sさんは彼の先輩ですよ。でも「あいつ」呼ばわり。他の仲間に対しても「あいつはネームが遅い」「あいつはセンスが悪い」と頭から終わりまで「なぜあいつらが連載できないか」の持論を展開。要するに年上であっても「連載」を持ってないやつは全て自分より下、という意識なんです。

そしてあとは自慢大会

「漫画描いて2作目で受賞、読み切り掲載。三作目で連載。こんな奴めったにいない。」

「俺の受賞作品、編集部内では相当評判だったらしい」

「大賞じゃなかったのは、大賞にしちゃうとそれから後が続かないジンクスがあるので、期待してる奴にはあえて大賞はあげない。それだけ俺が期待されてるってこと」

 

もうこちらとしては「はあ・・そうですか」としか答えようがありません。まあ確かに、そんなすぐ連載持てるのは、すごいです。めったにいないのは事実。しかし、そのことをこんなにも自慢気に初対面の人間に話す人も、めったにいないと思います(笑)。

 

それが終わると今度は同じ雑誌に書いている作家さんの悪口。

「あの作家は人気投票でもいつも俺より下なのによく巻頭カラーを描かせてもらってる。ひいきされてるんすよ」

「あの女性作家は話つまんないけど顔可愛いから。編集に媚売って描かせてもらってる」

「あのベテランはもう才能枯れてるのに名前だけで連載してる。ホント迷惑。早く引退すればいいのに。マンガも古いんだよ。」

 

少しくらいならまだしも仕事中ずっとこんな調子じゃ聞いてて辛い。

彼の悪い評判とは、とにかく「悪口や余計な一言が多く、仕事場の雰囲気を悪くする天才」というものだったのです。

「自分より上の人には下手に出るが、自分より下の人間には容赦ない」という部分もありました。もっとも「自分より上」の作家さんに対しても上記のように陰口三昧ですから、素直に下手に出てたわけではないのは容易に想像できます。

 

一緒にいる若いアシスタント君にも、「上から目線」でとにかく説教。アシ仕事に関してだけでなく「お前のネームは・・」とか「お前の絵柄が・・」とか逐一取り上げて説教です。

まあB君本人は「アドバイスしてやってる」つもりらしいのでそれだけなら悪くはないにしても

 

「頑張らないとSみたいになっちゃうぜ。あいつもう〇年もアシやってるのに一回も読み切り載ったこともねーんだぜ。読み切り載るなんてアホでもできるのに。センスねーんだからあきらめて田舎帰ればいいのにな。いつまでもしがみついてたって才能ねー奴は惨めな人生送るだけなんだよ。」

 

 

 

・・・・もちろん、彼の言ってることは間違いではありません。厳しい世界なので仲間だからと言って『馴れ合い』の関係がいいわけありませんし、「言うべき事は言う」という彼のスタンス、決して嫌いじゃありません。

 

売れる売れないは別にしても、やはり「連載を持つ」というのはある意味漫画家としてのステータスです。持てない人間が山ほどいる世界で、彼はそのハードルをクリアしているわけで、ある程度デカい口を聞く「権利」があるのです。

 

しかしね・・それでも「言い方」ってものもあるし、しかも前にも書いたかしれませんが私はできるだけ仕事は楽しくやりたい方なので(誰でもそうか)、仕事の間中こんな話ばかり聞かされたらさすがにキツイです。

(まあ自分も読み切り一回載っただけの、Sさんと似たような状況だったのでまるで自分に言われてるようで辛かったのかもしれませんが(笑))。

とにもかくにも、彼の中で「人間関係」というものには「上下」しかない。「対等」なんていう概念がすっかり彼の中から抜け落ちてるような、そんな印象さえ受ける人だったわけです。

もう一人のアシくんは、もう「こんなことには慣れている」と言わんばかりにある程度聞き流してる感じだったので、精神を鍛える意味ではいい仕事場なのかもと思ったり。

 

 

 

ただそれもB君の連載が順調な時はまだよかったんです。しばらくヘルプを続けるにつれ状況が変わり、どうやらB君の作品の「打ち切り」が決まったという状況になったころから、彼にはまた「別の症状」が現れ始めたのでした…。

 

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

 

アシ生活の中での私の黒歴史part2・・漫画アシスタント体験記第45話

 

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