なんか久しぶりだな(笑)。どこまで書いたか忘れてしまってた。
そうそう、「たった一人の修羅場体験」ってのを終わったところまでですね。
30ページの読み切り原稿をたった10日であげるという地獄を味わい、思ったほどの結果が得られなかった私。でもその結果が出るまでの二週間ほどはどうなるのかのドキドキと、久しぶりに現場へ戻った安心感とで、なんとなく気分が高揚していました。
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新たなアシスタント君 なんと家が目と鼻の先!さらに驚いたのは‥。
私が当時は言っていた現場は「ザ・漫画職人」ともいうべき、こだわりの強い漫画家さんたちの中でもさらにストイックで妥協を許さないことで有名なMさん。
しかしそのこだわりは全て自分の方へ向くという、アシスタントにとっては楽でいいのですが自分をあまりに追い詰めて描くそのスタイルに見てるこっちが病気になりそう。
そのくらい全身全霊で漫画を描く方でした。
Mさんとの出会いに関する記事はコチラ
見てるだけで辛い‥ザ・職人作家の苦悩 漫画アシスタント体験記第34
それでも連載が続くにつれ作業内容もだんだんと固まってきて、それなりに楽しく過ごせていました。
さて私が原稿作業で休んでいた間、私の穴を埋めるべく新しいアシスタントさん(男性)が「ヘルプ」という形で一人入っていました。
彼の名はUくん。アシ歴は3年ほどで手は早く、しかもおしゃべり好きの明るい性格で入ってすぐに現場になじんでいました。
ストイックなMさんと合うのかと思われがちですが Mさんもストイックなのはネーム作業と作品の仕上がり具合だけで、作業中は自身もテレビを見ながら雑談したり、基本人と話すのは好きな性格。
しかもUくんが漫画も好きでありながら大の映画好き、しかもなかなかマニアックな、あまり人が知らないような映画が好き。実はMさんもそういう方で、元々が漫画家を目指す前は映画監督になりたかった人だということもあり、初日からすっかり意気投合。
この現場での先輩アシが別のバイトで休みがちになったため、私が帰ってきても「準レギュラー」のような形で続けて入ってもらうことになりました。
夢は古本屋のオヤジ❓ アパートには山の様な数の漫画、DVD・・
U君は私と同い年でもあり、彼の明るい性格もあって私もすぐ打ち解けました。しばらくして、映画好きの彼が家から手持ちのDVDを持ってきて仕事場で鑑賞するというブーム(笑)が起きました。
何しろ作家のMさんが、マニアック過ぎて今はもう観れないと思ってた映画のDVDをあっさり「あ、それ持ってますよ」と言うもんだからMさんもうれしくなって「じゃああれは?これは?」と続けざまに注文。
しかしけっこうな確率で「持ってる」というUくんに「いったいどれだけのDVDを持ってるの?」と聞くと、今住んでるアパートにDVDは約3千本、マンガの単行本は5千冊くらいはある」とあっさり。
マンガ本に関しては「実家の北海道に戻れば合計で1万冊くらいはあるだろう」とのこと。
Mさん「もうそれで商売できるじゃん」
Uくん「あ、はい。漫画家で食えなかったら、マジで古本屋やるつもりっす。」
将来の計画もバッチリなUくんでした(笑)。
そうやってだんだんとUくんについて掘り下げて聞いてるうちに、どうやらUくんのアパートが私が当時住んでたアパートの目と鼻の先にあることがわかりました。それで次の休みの日にUくんのアパートに行き、どれだけたくさんの漫画があるのかこの目で確かめに行くことに。
しかしそのアパートの中は、私の想像をはるかに超えた異次元空間が広がっていたのでした。
もう本当にすぐ近く、自分のアパートから200Ⅿも離れていない場所にUくんのアパートはありました。毎日通ってる場所でしたが近くに友達のいない(笑)私としては少し新鮮で、ウキウキした気持ちでアパートの階段を上がると一番奥の突き当りにUくんの部屋が。
いつも通りの明るいテンションで迎えてくれたUくん。そして部屋に入ろうとすると、すでに玄関先にはうず高く積まれた漫画本の山が、圧倒的存在感で私を出迎えてくれました。
さっそくの歓迎ぶりに少し気後れしながら中に入るとさらに台所(と思われる)場所にも所狭しとマンガの山、山、山。もはや奥が見えないほど何重にもわたって積まれていました。
Uくん「もう奥に何の本があるのか俺も忘れちゃった(笑)」
さらに奥へ進むとおそらくはリビング(と思われる)場所にも、マンガの山、そして映画のDVDの数々。 失礼だけどさほど広くない2部屋のアパートには、人が通る隙間もないほどびっしりと積まれたマンガ本の山。
いわゆる『生活導線』と呼ばれるベッドから台所、トイレ、風呂へ続く一本の道 以外全部マンガ、DVDというすさまじい空間。おかげで服やバッグなどは一か所に固められ、所在無さそうに縮こまって置いてありました。
トイレの中にまで置き場所のないマンガ本が詰め込まれ、いったいどうやってこれだけの物を詰められたのか、しかも2階だったから重量オーバーで床が抜けたりしないのか、さまざまに疑問の湧いてくる壮絶な部屋でした。
居住空間はほとんどベッドの周りしかないこの特殊な空間に、しかしU君は実に満足そうでした。
「ああ、彼はホントに漫画が好きなんだなあ・・」
自分も漫画が好きなことは事実です。
でも、自分の居住空間を圧倒的に侵食し、地震が来たら一発でヤバいことになりそうなほどのマンガ本に包まれててあんなさわやかな笑顔はできません。
その後の彼との「マンガ談義」にも熱がこもり、「負けちゃおれん」とたくさんのいい刺激をもらった実に有意義な休日となりました。
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和気あいあいの中にも厳しい現実・・当然だが、我々はプロなのだ。
Uくんも加わり、仕事場も作業的に波に乗ってきました。初めはうなりながら、頭を抱えながらアイディアを絞り出していたMさんも、ようやく描きたかった内容に作品が近づいてきたようで割とスムースにペンが進むようになってきました。 ところが・・。
ある日の朝、仕事場へ行くと玄関でしばらくバイトで休みがちだった先輩アシに出くわしました。
「おう」
と一言私に声をかけ、私も何気に「あ、おはようっス」と返します。でも、これから仕事だというのに、先輩はカバンを持ったまま外へ。
なんか不思議な感じを抱えながら仕事部屋へ行くと
Mさん「彼には辞めてもらったから」
私「・・へ?」
事情を聴くと、その先輩アシ、Mさんのところに入って長いのですがもうずっと漫画は描いてなく、近頃は別のアルバイトの方に時間を割くようになり、マンガの方はどんどんおろそかに。
「年齢もそこそこいっているのにいつまでダラダラやってるんだ。このままでは君の将来にとってよくない。マンガに真剣になるか、それともこのままマンガを諦めるか選びなさい。」
と、Mさんは先輩にちょっと前からそう言っていたらしい。
しかし先輩ははっきりとした返事をせず今回また「別のバイトで休ませてほしい」と言ってきたのだとか。
それでもうMさんはその場で「もう来なくていい」と、先輩に解雇通告。
そのあとに何も知らない私がノコノコやってきたというわけ。
私の場合もそうでしたが、漫画の世界は、世間の常識とは少し離れたところにあります。会社形式にしているところはそうもいかないかもしれませんが、割と「今日でクビ」と言われることはあります。
私のように技術的に追いついてないからクビになるケースや職場の空気、ルールを乱す人が辞めさせられる場合など様々です。
そのあたりは、どんなにその人がいい人であろうと作家さんが困ろうとシビアです。まあ当然ですね。しっかり賃金が発生している「仕事」です。
キチンとした意識を持たなければ続けさせてもらえません。
この時は初めてでしたが、私はこのあとも何度も「現場」でのシビアな人間関係を見てきました。我々はあくまで「仕事仲間」であって遊び半分にやってる「マンガ仲間」ではないのです。
なかなかこの意識が持てないまま、この世界に入ってくる若い人、結構います。
皆さんも「マンガ」で生きていくことを望むならしっかりとした「プロ意識」を持つことをお勧めします。
ともあれその後はUくんが仕事場に「レギュラー」として入ることになり、明るいながらもれっきとした「プロ集団」として、人気の出てきた連載漫画を支えていくことになったのでした。
つづく
(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)
忘れたころにやってくる あのトラウマ!? 漫画アシスタント体験記 第41話
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