大手ならではの作品作り? メリットとデメリット アシスタント体験記25話

体験記25 漫画アシスタント体験記

さて またまた新しい仕事場で相変わらずの不安定な人生を送ってますが(笑)、

この頃になると少しはこの業界にも慣れてきてアシスタント業務に関してはある程度「やっていけそう」に感じていました。

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背景スキルに一定の自信?しかしそのことで起きる弊害とは?

 

最初の失敗続きだった頃に比べれば 多少自分の作画能力にも自信がついていたくらいなので、みなさんの中に自分の実力で通用するかどうかが不安な方、大丈夫です。最初は失敗したりして自信をなくすことはあるでしょうがやはり「継続は力なり」で、続けていれば実力はついてきます。

ただここで注意しておきたいのが、アシスタントの現場で培われるのはあくまで「背景作画能力」です。

人物を描くスキルは(モブなどを描かされない限り)現場で養われるわけではありません。自分の漫画を描く時にビックリするのが、そこそこペン慣れてると思った自分のキャラ画が全く向上してないことです。

背景だけ変に上手になってキャラが以前のスキルのままだとまた妙な違和感が出てしまいます。

こればっかりは自分で何とかするしかありません。自宅で背景の練習をするとき、必ず自分のキャラ絵も込みで練習することです。  「んなこたあわかってる」と思う人もいるかもしれませんが、意外と現場仕事が続くと、意識しなければおろそかになりがちになります。

そもそも背景を描く時とは、筆圧のかけ方から力の抜き具合が全く違います。キャラのペン入れに慣れるのとは全く違うので、練習する時はキャラ絵も同時に練習しなければすっかり「アシスタント専門の絵師」になってしまいます。それが望みならともかく、そこから成長して独立したいと思ってるなら同時進行でキャラ絵の練習をすることを強くおすすめします。

 

しょっぱなから話がそれました(汗)。すみません。

今回の話のメインはそこじゃありません。新しい仕事場で、新連載の一発目から参加した現場。そしてそこでは、プロとして漫画を作っていく上での、私にとっては初めての発見がいろいろありました。

 

新たな発見?「売れる漫画」作りの基本

 

大体の仕事場は普通誰でも想像する通り、担当する編集者がいてその編集さんとマンツーマンで作っていくのが基本ですが

大手の出版社ではその担当編集さんが2人、3人と複数います。それもある程度上下関係が決まっていて チーフになる編集さんと、仕事を補助するサブ編集さんがいたりするのですが大手の中でも本当に中心の雑誌、誰でも名前を知ってる雑誌になるとそれが4人、5人と大所帯になり、作家さんも入れて「チーム」として仕事をします。

しかも作家さんがそこそこ名の売れた方なら別ですが 私が今回お世話になったところは作家さん自体が新人、そして初連載。

そしていわゆる「原作者」がついた、ほとんど「作画担当」という形での連載。

この「原作」というのがクセ者で、有名作家さんがやる場合もありますが大体は「名前だけ」つまり原作は「編集部」。という場合があります。

そうなるともう完全にその漫画は「編集部」が創る漫画で、まあ言葉は悪いかもしれませんが作家さんはもう「名前だけ」貸しているだけの存在。 あまり聞いたことのない名前が原作で付いている場合は大体そうです。

別にそれがいいとか悪いとか言っているわけではありません。そういうやり方もあるんだ、という程度の理解でいいです。漫画制作方法も時が経つにつれて変わるのは当たり前、効率と結果が最重要の大手出版社ともなれば当たり前なのかもしれません。

日々いろんな漫画に触れ、売れる売れないのある程度の傾向を知っている編集さんが過去のデータで研究し、「こうすれば売れる」というマニュアルに沿って漫画を作るのです。ハリウッド映画なんかでもそうですね。

その結果Oさんの漫画は当時(今でもあまり変わってないかな)の傾向で主人公はイジメられっ子、でも幼なじみの女の子だけは味方。でもその主人公は実は秘められたものすごい力を持っていて・・というもの。

まあ「ありがち」といえばありがちの設定ですが、その手の漫画が実際売れていたのは事実です。

やはり名も無い新人で結果を出すためにはそういうデータも必要です。もちろんそれで必ず売れるという保証はないですが、やはり漫画もビジネスですから、出版社サイドとすればある程度の「結果」が見込める確信めいたものが必要なんでしょう。名も無い作家に好きにやらして失敗するより安心感が違います。

ただそれで割を食うのは作家さんです。まだ力のない作家さんには自分の中で納得できないことがあっても従わなければいけません。ですが上記したようにそれで必ず売れる保証はありません。

そして編集さんたちはそうやって作った漫画がたとえ売れなくっても、仕事を失うわけではありません。まあ、出世とかには響く可能性もあるので彼らは彼らで必死かもしれませんが会社をクビになるわけではありませんからね。

でも作家さんにとっては死活問題です。納得いかなくても言うとおりやって、それで売れなければそれで終わりです。仕事自体を失うのです。ですがそうやって「雑誌で連載した」という実績があるのとないのとでは大違いなので、結果はどうあれこのやり方は望むところ、という人もいます。

そして逆に 売れれば作家さんのメリットは大きいわけで、理解した上で仕事を受ける作家さんも多いわけです。

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「すべてが決められた原作」に沿って黙々と作業

 

そういう現場のため、普通は存在するはずの「作家と編集の打ち合わせ」なるものがほとんどありません。

作家さんは編集さんが既に作った原作を受け取りに編集部に行くだけ。ただこれも作家さんによっては違うかもしれません。考えてみたら私が最初に行ったアシ先も、原作付きでしたが原作者は編集さんでした。 ただ作家さん自体がそこそこ有名な方だったので打ち合わせに積極的、いやむしろ主導して参加している印象。

しかし今回の作家さんは作家としてはまだ実績のない新人なので、ほとんど打ち合わせといっても発言する機会はなく「あーだこーだ」と激論を交わす編集さんたちの会話をただ黙って聞いていることがほとんどだったそうです。

そして出来上がった原作は原作というよりネームそのもののような、コマ割りからキャラの配置やセリフ、背景の密度などがキッチリ決められているものでした。

流石に背景のチェックは作家さんがしていましたが、密度や構図はほとんど決められていました。

言ってみれば(ちょっと聞こえは悪いかもしれませんが)作家さんも「キャラクターを描くアシスタントの一人」のようなものです。

私にとっては初めての経験でしかも若かったせいもあって、作家さんのいない時にいろいろこのやり方についての疑問について話したりしてました。やっぱりどっか漫画を「作らされている」感じに違和感を感じたのも事実です。そんな時も先輩のMさんなどは相変わらず「したり顔」で「こんなの別に珍しくもなんともないよ。以前ワシが通ってた現場では・・」と「業界知り尽くした感満載で経験談を語っていました。

もう一度言いますが今では私はこのやり方を決して否定はしません。要するに「いろんなやり方が有る」ということです。これもひとつの「漫画家になるためのアプローチの方法」と考えればいいのです。こういう形でもとにかく声をかけて頂ければその状況で頑張る。それでいいと思います。新人作家にとって何より大事なのは「実績」。もちろん「売れた」実績が一番大事ですが「連載した」という実績もあるとないとでは天と地ほど違います。

それくらいマンガ家として独り立ちするのは厳しいということです。最初の作品が認められて連載し、それが爆発的にヒットするような天才なら別ですがそんなのは本当にひと握り。

そんな「あるのかないのかわからない運」に頼るより「どんなチャンスでも貪欲に吸収してやる」というしたたかさも、マンガ家になるためには必要なんだと思います。

ただあくまで決めるのは「あなた」です(笑)。「言うとおりやったけどうまくいかなかったぞどうしてくれる」と言われても責任は取れませんのであしからず(笑)

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

 

密室での仕事における人間関係の難しさ アシスタント体験記 第26話

 

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