アシ生活の中での私の黒歴史part3・・漫画アシスタント体験記第46話

IC 漫画アシスタント体験記

 

あまり引っ張るのも申し訳ないし、私としてもこれ以上彼のことについて書くこと自体あまりいい気持ちはしないので今回で終わりにしたいと思います。

さて、当時私がお世話になっていた作家Jさんの所に、連載が終わって暇を持て余しているB君がアシスタントに来ることになり仕事場でもちょっとした話題になりました。

 

前回の記事 シ生活の中での私の黒歴史part2・・漫画アシスタント体験記第45話

 

彼を知ってるのは私と、私を彼の所に紹介した先輩Sさんの二人。もう一人いましたがその人はめでたく連載することになり離脱。そのあとに新人のA君が入ってきて、三人で和気あいあいとやっていたところにB君も加わることになったのです。

散々私たちからB君の話を聞かされていたA君はもう興味津々。「早く会いたい」とまで言い出しました。A君はB君の所に入っていたアシさんよりもさらに年下。何も知らないA君がどういう扱いされるのか・・私も少なからず興味がわいてきました。

 

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出勤初日から全開のBくん

 

 

 

いよいよその日がやってきました。久しぶりに会うB君は、私が最初会った時よりさらに丸みを帯び、小動物感に拍車がかかっていました(笑)。勝手知ったる身内と言う感じで、最初から馴れ馴れしさ全開。作家のJさんにもほぼタメ口交じりで意味のない「大物感」を醸し出していました。

 

さらにA君が自分より年下で、まだアシを始めて間もないことを知るや途端に例の上から目線の癖が。またA君がしたたかと言うかちょっと面白がってるふうにわざとB君をおだてるもんだからよけいにB君の鼻はどんどん長くなります。

 

A君 「デビュー三作目で連載って、もうそれは「天才」と言っていいんじゃないんですか?」「初めて会った時から、あ、この人はなんか違うなって感じはビンビンしてました」「なんでそんな発想ができるんすかー。やっぱ俺らとは次元が違う人なんすねー。」

もうこんなこと言われた日にゃB君の鼻は青天井。どこまで伸びるやらって感じに急上昇です。早速A君に対して「漫画家の心得」を伝授です。

 

しかしA君も時々その伸び切った鼻をポキポキへし折ることも忘れません。

A君「でも連載やってもすぐ打ちきりだと信用なくなるんじゃないすかね・・」「まだ次の連載決まらないんすか?」「あまり間が空くとよくないって言いますよね。新人だと特に忘れられるのも早いし・・・」

鼻が伸び切ったところにこれは効きます(笑)

 

結局B君、夢の世界に持ち上げられては現実に引き戻されの繰り返し。元々アシなんてやる気もなかったB君、そのたびにまた深いため息の連続です。

しかもそこそこ慣れたころにA君がとどめの一撃をくらわします。

 

「連載作家がまたアシに逆戻りって、辛くないですか?」

 

この一言がきっかけでした。しばらくはそれでも和気あいあいとふるまっていたB君が、再び深い闇の底に(自分で勝手に)落ち込んでいったのは。

 

 

やさぐれとため息のオンパレード

 

暫くは仕事も態度も真面目な「風」にやってたB君ですが、だんだんと本性を現します。もともとやる気なんてまったくなかったB君。あくまで連載が決まるまでのつなぎ。

何ならちょっと「連載まで持った俺様が何でアシなんかやんなきゃなんねえんだ」「今は同じ仕事してるけど本来俺はお前らとは違うんだよ」と言った具合に、軽く我々を見下し気味に仕事場に来ていた彼なので、日にちが経つにつれ態度もどんどん横柄になります。

なにかといえば「あ~あ、めんどくせえ」「は~あ、やってらんねえなあもう」

少なくともお世話になっていた作家さんの仕事を手伝っているのだから、まあ普通の感性の持ち主ならもう少しきちんとすると思うのですが・・

勝手知ったる仕事場、しかも作家さんは別の部屋での仕事なので全く気にする様子もなし。

 

あまりの事にたまりかねて、冗談交じりに

「ちょっといい加減その愚痴っぽいのやめてくんねえかな・・雰囲気悪くなるよ。楽しく行こうぜ!」

と軽めに言ってみました。しかし

 

「へへへ~・・」と笑うだけで謝りも直しもせず。

 

だんだんこのあたりから雲行きが怪しくなってきます。

 

そのうち、仕事においてもミスが連発します。ベタの塗り忘れ、トーンの貼り忘れなど。しかもそれを一番年下のA君に指摘されると、彼のプライドがいたく傷ついたのか「別にいいじゃんこんなのくらい。そんなに気になるんならお前がやれよ」と逆ギレ。

連載してた頃、私と一緒にいたアシくんには「ここ!塗り忘れ‼しっかり見ろよ!」と怒鳴っていた彼とは思えません(笑)。

挙句に使い終わったトーンもきちんと戻さず。

 

こうなるとA君もだんだん言葉にトゲが出てきます。

「Bさん、こんなこと「くらい」きちんとやりましょうよ。子供じゃないんだから。」

そう言われてB君、自分の行いを反省するどころかさらにエスカレートさせます。

 

A君の隣で仕事をしていたためA君の使っていたトーンを横取りしたり、机から離れるのが嫌なのか使わないトーンを束で机の上に置き、A君がトーンの棚へ向かうのを見計らって

「あ、A、これもしまっといて」

A君に片づけをさせる始末。

 

その後も愚痴、ため息、ミス、逆ギレの毎日が続いて我々のストレスもピークでした。

 

先輩アシのSさんがわりと本気で叱ったりしたこともありました。しかしB君、前にも書いたようにSさんの事は少し見下してます。いや、我々の事もでしょう。「アシなんて自分より下」という思いが、言葉にも態度にも現れ、聞く耳持ちません。

 

彼に言うこと聞かせられるのはもはや作家のJさんだけ。

それとなくJさんには仕事場の現状を伝えるのですが、

「ん・・まあまあ、仲良くやってよ」

とあまり関心ないよう。

そういったことが仕事があるたびに起こり‥ついに私も「堪忍袋」の緒が切れる日がやってきてしまったのです‥。

 

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それでも頑張ろう、と気持ちを切り替えたとたん・・

 

私もその時はいい大人。いつまでもくだらないことでイライラするのはやめようと、彼の事は「気にしない」つもりでいました。同じ仕事場にいる分それは難しいのですが、それでも私自身彼の事をいつまでも考えてるのもしゃくに障るし、昨日までの雨も止んでさわやかな晴れ間がのぞいたその日、新しい気持ちで仕事に臨もうと意気揚々と仕事場に向かいました。

一番初めに着いた私は元気いっぱいの挨拶をし、仕事にかかっていました。そのうち他のアシさんも現れ、最後にB君も現れました。

私は心の中で「気にしない気にしない」と呪文のように唱え、与えられた仕事をこなそうと目を原稿に落とした途端の事でした。

 

 

B「は~~~あ~~~、やってらんねええなあめんどくせええ」

 

 

開口一番ですよ(笑)しかも今までとは比べ物にならないほどの大声で。

その時私の中で何かが壊れました。

 

手に持っていた、小型の掃除機(手のひらサイズで、机の上をなぞるとゴミを吸い取ってくれる)を、思い切りB君に投げつけてしましました。

 

「てめえ、いい加減にしろ!朝っぱらから気分ワリィんだよ!そんなに嫌なら来んじゃねえ!帰れ!」

 

B君の胸ぐらをつかんで、怒鳴りつける私。

それでも「あーーー?別に俺が頼んだわけじゃねえし、お前に言われる筋合いもねーよ」

と相変わらずの態度。

 

もうこの時は私も完全に頭に血が上り、すでに頭に二、三発・・・。その後も勢いに任せて彼の胸ぐらをつかんだまま部屋を飛び出しました。

作家のJさんもこの騒動にさすがに部屋を飛び出してきました。

 

しかし私は一切かまわず、そのままマンションの外へ。その仕事場のあるマンションは五階建てで、仕事場があるのは三階。外へ出るとすぐ近くに非常階段があり、駐車場へつながるようになってます。頭に血が上った私はその駐車場でケリを受けようとB君の胸ぐらをつかんだまま降りようとしました。

 

しかし・・勢いが余り過ぎたのか途中で足を踏み外し、二人まとめて階段下へ。

 

相当大きな音がしました。体中に走る激痛。しかしテンションが上がってしまっている私はそのまま彼と格闘へ。彼も必死でやり返してきます。

でも、もともとそういった類の争いには慣れてない二人。はた目にはどんなに滑稽に映ったでしょう。

そのうち結構な大声でがなりあっていたためマンションの住人が数人出て来てしまいました。

その頃には作家さんや他のアシも我々の所にやってきて二人を引きはがします。まだ興奮はしてたものの自分の中で「やってしまった」感は否めず、事態をどう収拾しようか頭の中は大混乱でした。

 

 

作家のJさんが住人たちに必死で謝り、警察を呼ばれるようなことにはなりませんでした。

そのまま部屋へみんなで戻り作家さんへの事情説明。B君はもう泣きながら「自分は何もしてない、いきなりこいつが怒ってきた」と説明。

私も一応説明はしましたが作家さんのマンション内で騒動起こしてしまったことへの申し訳なさの方が勝ってしまいあまり弁解らしいことはできませんでした。それ以上に、実はさっき転んだ拍子にしこたま足をくじいてしまい、激痛に耐えるのが必死だったというのが真実です。

結局他のアシさんが状況を説明してくれました。

 

結果、B君はそれ以来作家さんの部屋で一緒に仕事をすることになり、我々とは隔離されることになりました。

私は他のアシさんに慰められるも足の激痛に耐えながら一日仕事をする羽目になり・・自分の軽率な行いを心底反省する日となってしまった・・という、お話です。

 

 

幸いお互い大したケガではなくその後も普通に仕事してました。ただB君がトーンを取りにこっちの部屋へ入ってきた時の空気と言ったら・・お察しください(笑)。

その後、B君は「連載の打ち合わせをする」と言うので仕事場には来なくなりました。その連載が始まったのかどうかも・・知りません。

 

以上、私のアシ生活史上最も恥ずかしい「黒歴史」の回でした。今となっては本当に反省しています。もう少し何かやり方があったのでは・・。まあ今さら反省したところで意味はありませんが。

 

 

要するに人が同じ部屋で仕事を続けてると色々ある、という事です。皆さんが連載を持ってアシスタントを雇う時の参考にしてもらえれば(なるか?(笑))。

 

 

長々とお付き合い有難うございました。

 

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

 

人には言えない大御所漫画家の「痛い」エピソード 漫画アシスタント体験記 第47話

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コメント

  1. かくの より:

    初めまして。
    背景が苦手で「もう素敵素材のお力を借りるしかない…( ;∀;)」とPIXIVを探してOYUKIHANさんの投稿を見つけ、「こんなに上手に描けるのはどんな人なんだろう!?」とこのブログにたどり着きました。

    体験記、面白くて1話目から全部読んでしまいました!
    最初の職場の雰囲気や腹痛の薬を買い忘れてしまったところなど、緊張感と絶望感が伝わってきて読みながらハラハラしました。
    いろんな漫画家さん&仕事場があるのですね。
    どんな人のことも広い視野でフォローを入れつつ書いていらっしゃるのを見て、なんて思いやりのある方だろうと感動しました。
    そんな優しいOYUKIHANさんをキレさせるBさんはスゴイですね笑(´▽`*)
    アシスタント体験記、もっと読みたいです。

    アシスタントはみんな最初から上手(上手じゃないとアシスタントになれない)と思っていましたが、OYUKIHANさんの体験記を読んで、苦労しながら教わって自分でも努力して、地道に続けていくことで上達するんだな、トライアル&エラーなんだな、と学びました。
    私も素材に頼りすぎず自力でもがんばってみようと思います(でも素材もお借りします…)。

    漫画作品やほかの記事も読ませていただきます♪
    ありがとうございました!

    • hiro より:

      かくのさん、コメントありがとうございます。
      素材も利用していただき感謝です。
      まさに私がこのブログを書いた意義があった、と思えるコメントでございますm(__)m
      そう、みんな最初はヘタクソなんです。まあみんな漫画描く時、背景先に描く人あまりいませんからね。
      みんな現場で揉まれて技術を磨くんです。まあ、磨きすぎも諸刃の剣ですが(笑)
      これからも楽しく読んでいただける記事、利用価値のある素材づくり、頑張ります!
      またコメントしてくださいね。