今回は「体験記」ではありますが仕事場関係でなく自分自身のことです。アシの合間に応募した「マンガ新人賞」についてです。
業界屈指のストイック作家さんのところでアシスタントを始めて早や半年ほどがたちました。このあたりになれば私の方も仕事場に慣れてきて、現場の人たちとも程よく打ち解けそこそこ楽しいアシ生活になっていました。
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ただもちろん、それじゃいけません。
私は別にアシスタントになりたくて上京したわけじゃない。自分の漫画を描かなければ。
実はこの時私にも一応担当の編集さんがいて、次の作品について打ち合わせを続けてました。
しかし当然ながらなかなかうまくいきません。ネームだけでも時間かかるのに、それを担当さんに見せるのでも時間はかかります。いちいち個人のケータイや編集部に電話しスケジュールを開けてもらい、出版社に出向き あーだこ-だと言われまた家に持ち帰り、それを直してまた電話・・これの繰り返しです。
まだそのくらい時間が取れればいいですが担当さんのスケジュールが詰まってて、会ってもらえない時などはなんと「ファックス」でネームを編集部に送り、それを担当さんが見て電話で打ち合わせなんてこともありました。今はもうネットがあるのでメールなどで送ることも可能ですが、一昔前はそんなことが普通だったんです。
そうやって雑誌への掲載を目指すわけですが、当然ながらそううまくはいきません。仮に担当さんのOKが出ても、その先に「編集会議」と呼ばれるものがあり(その雑誌の編集さんが集まって、どんな作品を載せるか、あるいはその雑誌自体のこれからの方向性などを話し合う会議)、そこでOKが出なければ掲載までたどりつけません。
たとえそこでOKになっても、編集長が絶大な権力を握ってる雑誌では編集長の「鶴の一声」でひっくり返り、掲載がパーになることもあります。
とにかく新人漫画家には、自分の作品が雑誌に掲載されるまでには乗り越えなければならないハードルがいくつもある、ということなんです。
だいたい、漫画家のデビューまでの道のりというか流れみたいなのを図で説明するとこうなります。
まあ大まかですがこんな感じ。
その中で私は緑→青矢印の方。
掲載を目指してはいますがなかなか会議でOKにはならない。そこで担当さんから提案があったわけです。
「次の新人賞に応募し、そこで入選以上の成績を目指そう」と。
つまりより高い賞を取れば掲載もありうる、ということです。編集さんと打ち合わせをしながら賞に応募する、というわけ。ちょっとズルい感じに思うかもしれませんが、この業界ではよくあることです。
全く名前の知らない新人を売り出すためにはやはり編集サイドとしても何らかの「宣伝文句」が必要なのです。
「○○新人賞で大賞を受賞した○○氏の受賞作、ここに登場!」
とか
「前回の新人賞で入選となった××氏の意欲作!」とか。
とにかく売り出すにも何らかの「ハク」があった方が売り出しやすいのです。まあ「全米が泣いた」的な奴です(ホントか?)
というわけで、その新人賞で上の賞を取れれば編集会議でも掲載OKされやすくなるので、それを目指そうというわけです。
しかし次の新人賞の締め切りまですでに約一か月。 もうこの時点で結構ヤバいんです。その雑誌には月例賞(毎月一回ある新人賞)のようなものがなく、半年に一回の大型新人賞があるだけです。なのでこれを逃したらあと半年は待たなければならない。したがってなんとしても今回の締め切りに間に合わせる必要がありました。
しかしネームの直しが何度もあり、なおかつアシ仕事には行かなければならない。なんだかんだでネームがOKになったのは、なんと新人賞締め切りの一週間前でした。しかも最初は24ページくらいで収めるつもりがなんだかんだでページが増え、結局30ページに。
豆知識
新人が応募するとき、雑誌に掲載しやすいページ数に収める方が作品が載る可能性は高いです。やたらページ数が多いものがたまにあったりしますが、どんなに面白かったとしてもそういうのはまず雑誌に載りません。ページ数は毎回だいたい決まっていて、一人の作家の分が増えれば他の作家の分は減ります。よほど大御所ならともかく、ペーペーの新人に他の作家さんの分を削ってまでページを割いてやろうなんてところはありません。
超大作を描いて思いのたけをぶつけたい気持ちはわかりますが、マンガはやはり雑誌に載ってナンボです。最初はまず無難に16ページ~24ページくらいの、連載陣に交じった「箸休め」程度の作品の方が喜ばれます。参考までに。
しかし当時の私にはそんな知識は当然なく、また編集さんにももっとページを増やしてじっくり見せようと言われていたので当初の予定からは大幅に増ページ、しかも締め切りまであと一週間。
普通はこんなん無理です。
まず全部自分一人でやらなければならない。アシなんて使ってる金も余裕もない。当然アナログですから雑費にお金がかかる。何か買うにも足を運んで買いに行かなきゃならないので無駄な時間も増える。無理な材料てんこ盛りです。
そもそも一週間で30ページなんて締め切りに余裕があったとしても最低でも1か月、仕事をしながらならもっとかかってしまうものです。それを一週間でなんて・・
と、今なら思うのですが その時の私は「燃えていました」。
若かったというのもありますし、次の新人賞まで半年待つというのがたまらなく嫌でした。そして、それよりも何よりも一番の理由として「ここでしっかりこの期間で出来ることを見せつけておけば編集さんからの信頼度も上がるかもしれない」という「下心」があったのも事実です。
かくして私は、アシ現場の作家Mさんに「一週間だけお休みください」と頼み込み、一週間で30ページの読み切り原稿完成させるという「無謀なチャレンジ」を決行することになったのです。
作家さんにOKは頂きましたが、Mさんやアシ仲間に心配されるほど無謀なチャレンジでした。普通の人ならわからないでしょうが、仕事仲間たちにはそれがいかに無茶な挑戦かがわかるからです。
超ストイック、自分の仕事に妥協を許さないでおなじみのMさんには余計に信じられないようでした。あとで聞いた話では仕事場の中で、私が一週間でできるかどうかを近くの弁当屋で普段は絶対買わない超デラックス弁当を賞品に、仲間内でのちょっとしたイベントになっていたようです。
はたして一週間で30ページ、単純計算で一日4ページ強のノルマでマンガを描かなければならない超過密スケジュール。しかもたった一人で。
あまりにも無謀なチャレンジは成功するのでしょうか・・・!
長くなるので続きます(スマソン)<m(__)m>
つづく
(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)
果たして間に合うのか・・たった一人の「修羅場体験」 アシスタント体験記第38話
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