行く前は恐怖だった・・業界でも指折りの職人気質 果たして実態は‥。漫画アシスタント体験記第32話

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さて、私が次に紹介されて行った仕事場は、そこそこのベテランですが一般的に名前が知られてるわけではおそらくないでしょう。

しかし、業界内での知名度は抜群。たまにいますねそういう人。世間的にはあまりヒットした作品はなくても、その卓越した才能はしっかりと認められ、むしろ同じ漫画家さんにファンが多い、そんな作家さん。まさに今度私が行くことになった作家さんもそういう方でした。

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そしてその作風から作者自身も「ストイックで職人気質で熱い人」的なイメージでとらえられ、アシスタントに行きたくない作家ベスト5(仲間内調べ)に入る方として、自分自身の中で認識していました。

行く前はビクビク・・そして実態は?

そこの仕事場を紹介された時、正直「断りたい」気持ちでいっぱいでした。周りからの印象、作風からの印象でその作家さんは私の中ですっかり「怖そうな人」としてインプットされていたために、私自身「あまり気乗りしないなあ・・」というのが正直な感想でした。

実際に怖かったとしてもそうやって編集さんに紹介された手前 勝手に辞めることができないという強迫観念にとらわれていたのも事実です。いやもちろん頑張るつもりでいつもいますが  私の場合どうしても最初のインパクトが強くて「ひょっとしてなにも出来なくてまたご迷惑かけてしまうんじゃ」という「負のイメージ」がずっと付きまとっているのです。

それなりに技術が身についてきてもその思いは消えることはありませんでした。しかしあえて言えばそれは決して悪いことではないと思っています。少しはこの世界に慣れてきたとはいえいろんな作家さんのところにお世話になる身だと今まで身についた技術が全く役に立たないこともままあります。

もちろん基本的なことは同じなのでそれを応用することで最初はしのぎ、だんだんとその職場のやり方に慣れていくというのがいつものパターンですがだからと言って気を緩めていると結構失敗することもあるので楽観はできません。

初めての現場はそうやってある程度緊張しながら行くものです。しかし、ただでさえ何も情報のない作家さんのところへ行く時もそうなのに今回は入ってくる情報はみな「厳しい仕事場」「大変そうな現場」というものばかり。さらにはその作家さんの作品を見ても、密度が濃く、とにかく描き込みで勝負してる感じ。作品からあふれ出るパワーはそこらの作品の比じゃない感じ。

私はもう行く前から「ビビりまくり」でした。とにかく基本を確認し直し、ある程度の要求に応えられることを自己点検。あとは現場で集中して早く現場の空気に慣れるしかないと、これまで以上に気合を入れていました。

まあもっとも、そう思っていたけど実は・・なんて場合もあったりするのでね。でも基本私は「最悪の状況」を想定して動くタイプです。だから「いくら何でもそこまではないだろう」という場合を想像しながら初出勤の日を待つことにしました。

初心者に戻ったような緊張感・・果たして作家さんの初対面の印象は?

そしてやってきました初出勤日。今回の集合場所も最寄りの駅。実は私の他にも新入りアシスタントが数人いました。そこに作家さんの担当編集さんもいて、全員が集まったところでアシスタント同士のあいつもそこそこに仕事場へ。(なんだか日雇い派遣みたいだなあ今思えば(笑))。

その道中、編集さんが「今度の作家さんも新連載が始まったばかりで、ページ数も多く結構毎日追い込みで大変なんです。」ということをしきりに我々に語ってました。ちなみにこの編集さんはその前の女性作家さんの担当さん(作家さん失踪事件の時に青くなって私のところへ電話してきた人)です。

ただでさえ厳しそうな作家さんの仕事場へ行くのに緊張してる我々に向かって、この編集さんも能天気というかあまりものを考えないタイプというか(笑)さらに緊張感が増すようなことをべラベラと喋りまくります。

わりとにぎやかな商店街を過ぎ、住宅が立ち並ぶ中にそびえたつ高級そうなマンション。やはりベテランだけあっていいとこ住んでるな・・と、自分の緊張をほぐすためにもわざとアホみたいなこと考えてみたりしながら、引率されるままにその中へ入っていきます。

エレベーターの横にはなんか高そうな豹だか虎だかよくわからないオブジェが。ちょっとこのマンションのオーナーの趣味にも疑問を感じながらも、全員でエレベーターに乗り込みます。

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仕事場は5階。編集さんが呼び鈴を押すと、出てきたのは若い男性。

(あれ、40前後のベテランさんだと聞いてたけどずいぶん若いな・・)と一瞬思いましたが、そこそここの業界にいれば、部屋から出てくる人が作家さんとは限らないという「業界のあるある」は理解できます。すぐ(ああ、アシスタントさんか・・)と思うことはできましたが、そうするとまた別の不安がわいてきます。

というのも、作家さんの自宅でありながら作家さん自身が出てこないときというのはおおまかに2通りの理由があるからです。

ひとつは  追い込みで忙しすぎて出てる暇がない。

ふたつめは オレ様作家で雑用は全部アシにやらせる。

まあもちろんどちらでもなく、トイレに行ってたとかで出られない場合もあるでしょうけど(笑)、この時の私がそんな冷静に考えられるはずもなく(ああやっぱり「パワー系の作家さんなのかな‥いろいろ言われんのかな‥)とすでに入る前から緊張はMAX。

恐る恐る中へ入ると、広いリビングに数人の男たち。何やら険悪なムード。我々を導いてきた編集さんによるとどうも、新連載始まって作業中というのにもかかわらずネームの進行に無理が生じたらしく、手直しのために昨日から別の編集も加わってネームの修正作業中なのだそう。

というか編集サイドとしては別に問題はさほどないからこれで行きましょうと言っているのに、作家さん自身が納得せず、ほぼ徹夜で直しに集中してるのだとか。

(編集さんがOK 出してるにもかかわらず自分が納得しないから徹夜で直すって ありえん・・)

もうわけがわからなすぎて、自分の中での作家さんのイメージはそれこそTVのドキュメンタリーで観た「頑固一徹ラーメン職人」そのもの。今すぐにでも帰りたい気持ちでいっぱいでした。

しかしもはや時すでに遅し。促されるまま部屋に入り、作家さんとの初対面。こちらの作家さんをMさんとしましょう。Mさんと数人の編集さんは、ローテーブルを囲んであーでもないこーでもないと喧々諤々の打ち合わせ中。

そこへ空気を読まない編集さんが「あ、Mさん、アシスタントの皆さんを連れてきました。」とのんきに声をかけると、Mさんは腕組みしながらネームをのぞき込んでいた顔をむくりと上げ、ギロリとひと睨み。その目力の強さに足がすくむ思いです。

軽く会釈をした後「ちょっとそっちで待ってて」と一言言ったあとまたネームに没頭。

みんなで隣の仕事場へ移動するとそこにはすでに仕事中の先輩アシの皆さんが。軽く挨拶をした後、とりあえずMさんの一区切りがつくまで準備して待機となりました。

そして続く長い沈黙・・隣では相変わらず打ち合わせ中。普通の打ち合わせではたまに笑いも起こったりして和やかな雰囲気で進むところもあるのですがここは全くそんな様子はなく、小声で話す皆さんとひたすら作業に没頭するアシの方々、することもなく待機中の我々・・息苦しい時間が数十分続きます。

としばらくしてガサガサと片付ける音が隣から聞こえ「じゃ、そういうことで、よろしくお願いします」と打ち合わせの編集さんが部屋を出ていく声がしました。

さあいよいよ作家さんとの本格的なご対面です。粗相のないようにと気持ちを集中させ、それでも落ち着いてやろうとペットボトルのお茶を一気に飲み干した後・・おもむろにMさんが仕事場へ入っていらっしゃいました‥。

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

超ストイック!気難しさは業界随一!の作家さんとの、緊張の初対面・・結果は? アシスタント体験記第33話

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