仕事にも慣れ、少しづつ楽しくなった頃に!・・やはり厳しい世界です。 アシスタント体験記 第22話

アシ1 漫画アシスタント体験記

なんだかんだありましたが、私がこの仕事場に来てはや10ヶ月

まだまだ未熟ではありましたが、個性豊かなアシスタント仲間に囲まれ、ようやくアシ生活にも慣れてきたかな・・と思っていました。仕事をしながらネームを書き、読み切り掲載に向け打ち合わせを繰り返し・・漫画家を目指すという本来の目的に向けてようやく軌道に乗り始めた頃のことでした。

 

仕事場に漂う不穏な空気

 

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作家さんが仕事中、緊急の打ち合わせという名目で編集部へ出かけてから、なかなか帰ってきません。指示されていた仕事もだんだん底をつき、アシ仲間のみなさんもそろそろ手持ち無沙汰になった頃、一人のアシさんがボソッと口を開きました。

「なんか・・まずいことにでもなったかな」

実はそれ以前に、連載している漫画について、担当さんとケンケンガクガク、あったらしいのです。どうも「人気的に芳しくない」らしく・・どう「テコ入れ」するか、意見が合わずケンカになったりしてなかなかに険悪なムードだったそうで。

作家さん的にも思い通りの結果が出ず、少し感情的になることもありました。しかしその作家さんはそれをよしとしない(自分の仕事のことでアシスタントに当たらない、自分で処理する がポリシーの)人で、ちょっとテンパりそうになると散歩に出たりして発散させていましたが、最近になってその頻度も多くなっていました。

何とも言えない空気が流れる中、ようやく作家さんが帰宅。何事もなく振舞う作家さんと我々。自分の机に戻った作家さん、おもむろに口を開きました。

 

「みんなスマン! オレの漫画、今月いっぱいで「打ち切り」が決まったよ!」

 

息を呑む一同。

マンガ家にとってこの世で一番怖いもの・・それはお化けでも地球外生物の襲来でも天変地異でもなく、間違いなくこの「打ち切り」の四文字です。

打ち切り・・その名のとおり、漫画の連載が打ち切られる(終わる)こと。しかも最初から想定されていたものでなく、編集サイドの意向で、強制的に「止めさせられる」もの。作家さんの病気や雑誌そのものの廃刊以外で考えられる理由はただひとつ。

「単に人気がないから。」

人気があっても紙面の都合で打ち切りになったりすることもありますが大体は人気がないから終わらせられるのが一般的。とにかくこれに関してはマンガ家にはどうすることもできないもの。

一生懸命努力しても、一度決定が下ったら覆せない。マンガ家もいわば出版社に「雇われている」わけですから、出版社側から「いらない」と言われたら終わりなのです。これはもうシビア。実績があってもなくても関係ありません。

作家さんはしきりに謝ってました。「本当に申し訳ない。俺の力不足だ。」本来我々に謝る必要はないのですが、やはり打ち切りとなるとそこから先に雇用が見込めない。否応なしにその現場での仕事が終了となるのです。自分だけでなくアシスタントの収入源も絶たれてしまうわけで、雇用者としての責任からの謝罪だったのでしょう。

かくして私にとってアシスタント現場の二つ目、アシ仕事のアイウエオを教えてくれて、ある程度この業界での仕事にも慣れさせてくれたこの現場は、約一周年を目前にまたもや「終了」となったわけです。

 

ショックが隠せない食事中のアシ

 

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その後、夕飯を食いに作家さんを残してアシだけで外へ。 もちろん話題はそのことで持ちきりです。

「なんとなく予感はあった」 「やっぱりあの展開がまずかったんだよ」 みんな好きずきに「打ち切り」になった原因を語り合います。でももちろん、全ては想像でしかありません。

私自身ももちろん初めての体験で、「こんなにいきなり来るもんなんすね・・」というと、

先輩「こんなもんだよ(笑)」

と、アッサリ。

私「で・・このあとどうなるんすか?」

先輩「どうなるって・・終わったら解散だよ」

私「解散って・・ここはもう終わり」ってことですか?みなさんどうするんですか?」

先輩「どうすっかなあ・・とにかく次の仕事探さないとな」

 

前に書いたとおり私は以前の仕事では5年同じ職場で働いてきました。たかが5年と言われるかもしれませんがそれでもいろいろありました。辞めたくなるような辛いこともありましたが自分なりに努力して続けたと思っています。なにより私自身「仕事というものは一つのところでずっとやるもの」という意識があったので、前のアシ現場でのことといい、こちらといい、その「アッサリ感」に驚きを隠せなかったのも事実です。

マンガ家の世界でも、一度アシに入ったらずっとそこでお世話になるもんだと勝手に想像してたので、仕事がなくなればさようならという、「フリーランス」という仕事の不安定さを改めて思い知る形になったのです。

ある意味全ては「自己責任」。さあ私もうかうかしてられません。まだ漫画で食えるような状況ではなく、生活していくために働かなくてはなりません。

その後の仕事では、笑いもありましたがなんとなくみんな上の空。私も仕事しながら「これからどうすっかな・・」が頭の中をグルグル。

おかげでいつも以上にミスが増え、作家さんから「最後まで気を抜くんじゃねえ」と最後までお叱りを受けてしまったのでした。

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

決定後の職場の雰囲気は?私自身のその後は? 漫画アシスタント体験記 第23話

 

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