ついてない時はとことんついてない・・・漫画アシスタント体験記第43話

アイキャッチ8 漫画アシスタント体験記

さて前回、突然の腹痛に襲われた私は夕食の買い出しに行くついでに薬局へ寄る許可をもらい胃薬を買いに行きました。

最初に言った薬局は小さくて私の求める「ガスター10」が置いてなかったため、時間を機に新柄も駅員さんに教えてもらったもう一方の薬局へ向かった私。

そこには運よく置いてあった「ガスター10」を早速購入しようとレジに並んだ私の耳に、大きく飛び込んできた「自転車の倒れる音」。

なんとそれは、私がその前の店で買いこんだ「夕食用のお弁当」を積んだままの、私が乗ってきた自転車だったのです…。

 

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刻一刻と過ぎる時間・・そしてお弁当の生死は・・・

 

賞品をいったん棚に戻し慌てて外へ出た私の目の前には、倒れた自転車とその拍子に前カゴに入れてあったコンビニ弁当が無残に道路へ散乱しているという、血の気が引くような光景でした。

ただ、そこはコンビニ弁当。ご存知のようにコンビニ弁当はビニールでしっかり梱包してある分中身をぶっちゃけるという地獄は避けることはできました。しかし・・・

まあ、ふつうのご飯ものはギリギリセーフといった感じでしたが・・・問題なのは「汁物」

特に作家のSさんが頼んだ「ビーフカツカレー」と若いアシくんの頼んだマーボー丼は・・・

頑張って治そうと努力したものの…どうやっても「汚い」。フタの内側にべっとりと中身がこびりつき、とても店から何事もなく持ち帰ったとは思えないほど見た目が変貌してしまっていました。

 

もちろん味に変化はないし、外にぶちまけたわけでもないので衛生上も問題はないでしょう。私も自分だけの物であれば普通に食います。

 

しかし今は、今日はじめてお世話になっている現場、ちょっと厳しめの作家さん、ただでさえ時間をオーバーしている、ロクに戦力になれていない現状というある意味特殊な状況。しかもまだ腹痛は継続中。

 

明らかに「何かあった」ことが丸わかりの弁当をもって何食わぬ顔でいられる勇気はありませんでした。

かといって買い直してる時間があるか‥しかも同じ商品があるとは限りません。マーボー丼は最後の一個でした。

仕方なく意を決して、仕事場へ電話することに。

 

その時の私はすでに軽いパニック状態に陥っていたため、言わなくてもいのにわざわざ薬局を2軒回ったことまで喋ってしまいました。

「そして弁当が汚れてしまったので、自腹で新しいのを買う」という提案をしてみましたが、Sさんはもう思い出すのも嫌になるほどの低い声で

 

「いいからもう帰ってきて。みんな腹ペコなんだよ。ガチャ ツーツー」

 

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・・このままどこかへ消え去ってしまいたい・・。どっかの歌詞に出てきそうですが、本当にその時の私はそんな心境でした。でも荷物は仕事場にあります。部屋に戻らないと家に帰ることもできません。

とにかくもう一刻も早く仕事場に戻るしかありません。すっかり日も暮れた住宅街を自転車でひた走り、仕事場のアパートに戻ってきました。

私がはじめてお世話になった作家さんのアパートも遠くから見ると『鬼の棲む家』といった感じでしたが、こちらのアパートもまだ半日しかたっていないというのにすでに私の心の中では「魑魅魍魎の館」といった風情に。

 

ドアを開けたときの重苦しい空気ときたら(笑)。

誰一人私に話しかけるでもなく黙々と作業。何とか顔だけは取り繕ってひきつった笑顔を作りながらSさんのもとへ。

何も言わずお釣りを受け取ったSさん、

 

「メシにしましょうか」

 

周りのアシさんたちに声をかけるとやはり無言で弁当を取りに来る先輩方。こういう時にもっと明るい感じでさっき起こった大失敗を面白おかしく話せればいいんですが・・・私にはそんな度胸はありません。

全員がひたすら無言のまま弁当をかっ込みます。

 

食事のとり方も現場によっていろんなやり方があります。別の部屋にテーブルがある場合、そちらで食べる現場、あるいは仕事場にテーブルを持ちこんでみんなで囲む現場など。

ここはみんながそれぞれの机の上で食べるやり方でした。しかもあまり皆さんべらべらしゃべる方ではなかったので、休憩中だけつけているテレビを見ながら、男四人がひたすら飯を食うなかなかに「むさい」時間が流れていました。

 

そしてこの時は そこそこ緊張していたせいか腹痛も気にならなくなっていました。空腹時に痛くなったりするので、メシを食えば治ったりもするのです。

 

とりあえず無言のメシタイムが終わり、辛い時間ではあったものの弁当のことも何も言われずやれやれと一安心、ともかく今は痛くはないが痛くなった時のため、食後に胃薬を飲んでおこうと「ガスター10」をポケットから取り出そうとした瞬間・・・・・私は気づいてしまったのです。

 

 

 

 

あの時手に取った「ガスター10」を、

買わずに棚の上に戻し、そのまま帰ってきてしまったことを。

 

 

 

元から私は、ひとつのことに気を取られると別のことを忘れてしまう悪い癖があります。

自転車が倒れ、弁当をぶちまけしまった事実を前に私はすっかり腹痛を忘れ、弁当のこと『だけ』を気に病んだまま、何も買わずに帰ってきてしまっていたのです。

 

 

結果、夜中になってやはりまた痛み出した腹痛にもはやなすすべもなく、激痛に耐えながら仕事をし、耐えきれなくなるとまたもトイレで寝転がる「無様な夜」を、一人寂しく過ごしていたのでした…。

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

アシ生活の中での私の黒歴史・・漫画アシスタント体験記第44話

 

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